
<その3:スタート>
これは本当にル・マン独特の瞬間。外から眺めるのと同じくらい、コクピットからの景色も経験してきたけど、僕はチームのガレージから出ていく瞬間がたまらなく好きであることを認めなければならないね。とくにフォーメーションラップでは、フォードシケインに差し掛かると、音楽のクレッシェンドみたいに歓声がどんどん大きくなる。そのたびに毎回、本当に鳥肌が立つ。「この瞬間のために生きている!」と言っても過言ではないね。
<その4:ポルシェカーブ>
ここは正解がない。難易度のレベルはどこにも比べようがないんだ。ル・マンでの良いマシンの条件は、コーナーで失速しないように助けてくれつつ、ストレートラインのスピードを極力伸ばす、そのレアなブレンドに成功しているクルマだ。ラインは本当に狭い。このS字のポルシェカーブを全開で攻めるのはいつも正義だ! サーキットのこのセクションは……まぁ、どのコーナーもそうなんだけど、「なぜ自分がこの仕事をしているのか」を、いつも思い出させてくれる。初めてLMP1で走った時──ペスカローロのマシンだったけど、僕は得意げに攻めていた。それでも、リアビューミラーには常についてくるGTマシンが映っていた。つまり、僕は自分のこと(とLMP1マシンの速さを)を完全に過小評価していたんだ(笑)。

<その5:観衆>
このイベントの一週間は、そこにいるすべての人と何もかもを共有することになる。これはル・マンを特徴づけることのひとつだ。ある意味で、究極のパラドックスとも言えるけど、ファンの総数は本当に巨大なものなんだけど、お互いの距離はすごく近いんだ。テストデーから始まり、ドライバーパレード、車検、予選、そしてレースまで、幾度か顔を合わせる機会があって、自然と顔なじみになる。そんなのは他のどこを探してもないよ。それはガジェットなんかを通じてでは得られない本物の経験で、それこそがル・マンだ。とくに僕は、この近くのアランソンで生まれ育ったから、より特別な感じがするよ。