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投稿日: 2019.02.26 17:03
更新日: 2019.05.13 12:31

アジアン・ル・マン4連勝! CarGuy Racingが“夢への切符”ル・マン24時間出場権をつかむまで


ル・マン/WEC | アジアン・ル・マン4連勝! CarGuy Racingが“夢への切符”ル・マン24時間出場権をつかむまで

■決勝は一変。CarGuy Racingが完璧なレースを展開

 しかし迎えたレースでは状況は一変し、CarGuy Racingが圧倒的なレースを展開する。スタートを務めたのは、ここまでの3戦同様木村だ。「予選は2番手でしたが、クラスポールポジションのクルマをかわせるかどうかがポイントでした」とそのミッションを達成すると、好ペースで周回を重ねる。「今回のレースは、僕自身はすごくいいペースで走れていたんです。他のジェントルマンドライバーに比べても2〜3秒速かった」と木村は振り返る。

 わずか1ポイント、それでも1ポイント。木村にのしかかるプレッシャーは大きかったはずだが、ペースが良かったことが木村を“乗せて”いた。

「実はけっこうリラックスしていたんです。チャンピオンのためには完走すれば良かったので、それはできるだろうと(笑)。ル・マンというのはあまり意識していなかったですが、4連勝はいけると思っていたので、狙っていました」

 見事ファーストスティントを終え、今度はケイにバトンタッチする。「僕はいつも2スティントめを担当するのがルーティンになっています。僕自身のアジアン・ル・マンでのモットーは、『何が何でも絶対にミスをしない』ということ。運営する立場でもあるので、絶対にミスをしないように走ろうと決めていました」というケイは、木村同様慎重に、かつ快調に周回を重ねた。

 ケイは「完走さえすればル・マンにいけたので、プレッシャーもあまりなかったです」というが、今回はいつものルーティンとは違ったことがあった。それは、同じくAFコルセがメンテナンスするスピリット・オブ・レースの51号車の第2スティントのドライバーが、フェラーリのファクトリードライバーであるアレッサンドロ・ピエール・グイディだったのだ。

「これは一発みせないとな、と正直けっこうプッシュしました(笑)。結果的には自分の方がラップタイムは良かったですし、チームにはいい評価をしていただいたんじゃないかな、と思っています」

 ケイのスティントでの好走もあり、CarGuy Racingは首位を確固たるものにした。アンカーはカラド。ワークスドライバーの実力を存分に示し長い4時間のレースを走りきると、カラドは歓喜のウェービングをさせながら蛍光イエローのフェラーリ488 GT3をチェッカーに導いた。この瞬間、CarGuy Racingがル・マン24時間への出場権を手中に収めたのだった。

「あまり実感がないですけど、4連勝できたのはけっこうすごいことですね。今までにアジアン・ル・マンで4連勝したのもあまり聞いたことがないですし、日本チームでは初めてではないでしょうか。すべてチーム、そしてふたりのドライバーのおかげだと思います」と木村は振り返った。そしてケイも、「まずはホッとしています」と自らが仕切ったプロジェクトの成功に、満面の笑みをみせた。

CarGuy Racingのル・マン24時間挑戦を支えたケイ・コッツォリーノ
アジアン・ル・マン第4戦セパン GTクラスで優勝を飾り、ル・マン24時間出場権を獲得したCarGuy Racingの木村武史/ケイ・コッツォリーノ/ジェームス・カラド組フェラーリ
アジアン・ル・マン第4戦セパン GTクラスで優勝を飾り、ル・マン24時間出場権を獲得したCarGuy Racingの木村武史/ケイ・コッツォリーノ/ジェームス・カラド組フェラーリ

■初めてのル・マン24時間へ「楽しんじゃおうかな」

 こうして掴んだル・マン24時間への挑戦権。ところが、木村もケイも実はル・マン24時間を観たことも、サルト・サーキットを走ったこともないのがおもしろい。

「長年レースをさせていただいていますが、日本でのレースキャリアが長いので、昨年の鈴鹿10時間がいちばん長いレースなんです。31歳にして初めての24時間ですね(笑)。今までのキャリアでも足りていないところだったので、まずはひとつ自分の夢を叶えられる場所に到達できたことになります」というのはケイだ。

 アジアン・ル・マンの予算と、ル・マン24時間の予算ももちろん別だ。ル・マンの方が価格は高い。「すごくお金がかかるみたいなんですよねぇ。僕たちは超プライベーターなので、お金を稼ぐために仕事を頑張ろうかなと(笑)。AFコルセという素晴らしいワークスチームと仕事をさせてもらいましたが、それなりにお金もかかりますから」と木村は新たな目標を前に笑った。

 迎えるル・マン24時間に向けて、チームはすでに動き出して言える。木村によれば、「いいGTE車両をAFコルセで用意してくれているみたいです。来年WECで使うクルマを私たちに用意してくれると聞いています。『その意味を考えてくれ』とフェラーリに言われました」というほどだそうだ。ただ、カラドはAFコルセのLM-GTEプロに乗ることがほぼ確定しているため、CarGuy Racingからの参戦はできない。

「フェラーリが推奨するドライバーも考えていますし、日本からも乗りたいというドライバーにお声がけいただいています。ル・マンは経験がものをいいますから、ジェームスのようなドライバーを引っ張りたいです」と木村は言う。そのドライバーから、いかに木村とケイが経験をものにするかがル・マン24時間でのカギになりそうだ。

 今後、ふたりは3月にアジアン・ル・マン制覇を祝したフェラーリからの授賞式のために3月にイタリアへ向かい、その際に488 GTEをテストするという。そして、ル・マンのルーキーに課せられるシミュレーターテストをこなし、本番へ臨む。

「ル・マンは応援団もいっぱい来てくれそうですし、ツアーのようなものをやろうと思っています。CarGuyファンの方や、スポンサーになってくださる方がいらっしゃれば、バスを2〜3台借りて、楽しんじゃおうかなと(笑)」と木村は笑顔をみせる。

 木村武史という男は、話していると実に面白い。その人間性と、どんな時でも判断を誤らない目、そして何より人生を楽しむ姿勢が、ビジネスでの成功を導き、ル・マン24時間出場という、レースを始めてからの“夢への切符”をつかみとる成果に繋がったのだと感じる。

 クルマを愛し、レースを楽しむCarGuy Racingと自動車冒険隊隊長の挑戦は、6月のル・マンの空の下で、どんな結果をみせてくれるだろうか。

チェッカーを受けるCarGuy Racingのフェラーリ488 GT3
フィニッシュ後、AFコルセのメカニックたちと喜び合うコッツォリーノ
アジアン・ル・マン第4戦セパンを戦うCarGuy Racingのフェラーリ488 GT3


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