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投稿日: 2020.05.12 15:56
更新日: 2020.06.20 20:52

2013年WEC富士、受け入れられなかったニッサンZEODへの提案【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】


コラム | 2013年WEC富士、受け入れられなかったニッサンZEODへの提案【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】

 さてレースウイーク初日を迎えて私が富士に着くと、結局ZEODはフルラップでのデモ走行を行わないと耳にした。かわりにホームストレート上で“お楽しみ”を披露するという。しかし、結局これもグリッド沿いを走るという内容に格下げされた。

 ZEODの初走行はミハエル・クルムが担当したが、あのような短い距離のデモ走行ではどんなドライバーでもパフォーマンスは発揮できない。結果的にマシンは非常に遅く、期待はずれのお披露目だったと言わざるを得なかった。

 面目を保つためだろう、チームの広報担当者は、マシンははるかに速く走れるが意図的に控えめな走行をしたのだと主張した。確かに、ZEODのプロジェクトは非常に難しいものだったし、当時彼らが目指していたル・マン24時間までは8カ月の猶予があったから、それまでに状況は改善されるだろうと納得したのだった。

 当時、私の仕事はサーキットごとにマシンの詳細な技術写真を撮って記事を書くこと、そしてテレビとラジオの英語放送向けにピットレーンでコメンテーターを務めることだった。そのためZEODの件は別として、大会初日に参加するべき会見やミーティングが多くあった。

 そうしてサーキットを駆け回っていると、地元の学校から生徒たちがサーキットを訪れ、WECのプラクティスセッションを観戦したり、パドックを見学していることに気づいた。

 個人的に、こういった取り組みは素晴らしいと思う。日本の各サーキットはもちろん、私の故郷であるイギリスでも実現してほしいものだ。私が学校に通っていたころ、これほどエキサイティングな遠足はなかったのだから。

 この日はプラクティス1回目で95号車アストンマーティン・ヴァンテージGTEが2号車アウディR18 e-tronクアトロにクラッシュしたこと以外は特筆するべきことはなく、私はピットエリアでの車両撮影に時間を割くことにした。

 その後はいくつかインタビューをこなしたが、そのせいで富士スピードウェイから御殿場駅に向かう道中は新宿行きロマンスカーに乗れるかどうかの“レース”をこなす羽目に。

 結局ロマンスカーには間に合わず、私は普通列車で三島駅に向かい、そこから新幹線で東京に戻ったので、かなりの時間を奪われてしまった。

2013年のWEC富士、予選ポールポジションを獲得した1号車アウディR18 e-tronクアトロ
2013年のWEC富士、予選ポールポジションを獲得した1号車アウディR18 e-tronクアトロ
2013年WEC富士を戦った7号車トヨタTS030
2013年WEC富士を戦った7号車トヨタTS030

 土曜日に行われた予選もあまり目を引く内容ではなかった。LMP1クラスのトップ集団は拮抗しており、1秒以内の差にトップ4台のマシンが入っていた。結局、1号車アウディR18がポールポジションを獲得し、2台のトヨタTS030がその後方、2台目のアウディがトヨタの後方に続く結果となった。

 WEC富士を見る際は、スーパーGTとのラップタイムを比較すると面白い。当時、LMP1マシンは11周あたり約3.5秒ほどGT500マシンよりも速かった。当時のLMP1クラス最速ラップは、アンドレ・ロッテラーがアウディR18で出した1分26秒235で、LMP2クラスの最速タイムは、マイク・コンウェイがオレカ03で出した1分31秒778だった。

 これに対し、当時スーパーGTは中嶋一貴がPETRONAS TOM’S SC430で1分31秒040のベストラップを記録していた。実際、コンウェイのLMP2マシンはGT500だったら予選6番手という計算だ。ちなみに、2013年末に行われた富士スプリントカップではGT500のタイムは向上していて、大嶋和也のENEOS SUSTINA SC430は1分30秒701を記録している。

 GTEクラスはGT300マシンと比較すると面白い。当時、ARTA CR-Z GTを操っていた高木真一は最速タイム1分38秒773を記録していた一方、WECでのGTEクラス最速はフレデリック・マコヴィッキがアストンマーティン・ヴァンテージGTEで記録した1分38秒605だった。ここまでの接戦があるだろうか!(WEC富士後に行われた富士スプリントカップで、GT300は1分36秒736までタイムを縮めている)。

 さて、私はこの予選日も新宿行きロマンスカーを逃したが、そんなことが気にならないほど決勝レースを楽しみにしていた。私は富士スピードウェイに行くたびに高揚感を覚える。コースの歴史も感じることができ、独特の感情が湧き上がるのだ。

 しかし、この時私は富士スピードウェイで行われたJGTC(全日本GT選手権、現在のスーパーGT)や日本国内トップフォーミュラの多くで大雨に見舞われるレースもあったことを思い出すべきだったが、当時はそこまで考えが至らなかった……。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。


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