そんな期間を経て、富田にいよいよテストの機会がやってきた。とはいえ、現在は新型コロナウイルスの影響で渡航にも大きな制限があるなかで、成田空港からオランダを経由して、ボローニャのボルゴ・パニゴーレ国際空港までフライトした。
「成田空港は誰もいなかったですね……。身のまわりのものを空港で買うつもりで行ったのですが、乗る便のカウンターとWiFiのレンタル、自動販売機以外、ラウンジも何もやっていない。さすがに驚きましたね……」と富田。
今は海外へ渡った際には、多くの場合は14日間の隔離期間をおかなければならない。しかし、今回はWRTを通じて、テストの主催者、GTワールドチャレンジを運営するSROモータースポーツ・グループ、さらにFIA国際自動車連盟から、「この人物はプロフェッショナルレーシングドライバーであり、欧州への入国を認めて欲しい」というレターが用意されたため、120時間以内の滞在という制限つきながら、隔離期間を免除されたのだという。
「ふだんのイミグレーションと比べると、書類審査の時間でプラス5〜10分くらいでしょうか。拍子抜けするくらい簡単に入国できました。レターの効力が大きかったんだと思います。WRTというチームが知名度があり、さまざまな場所に顔が利くからだと思いますね」
こうして無事にミサノに到着した富田だが、WRTというチームの印象について聞くと「ベルギーのチームなのでフランス系のスタッフが多いですし、日本人に対して……というようなものを感じることもあるかと思いましたが、ものすごくフレンドリーでした」という。
「しっかりファミリーとして受け入れてくれましたし、僕が英語が分かるようにていねいに説明してくれ、メカニックもきちんとコミュニケーションをとってくれました。さすがプロのスポーツチームという印象ですね。さまざまな人種と仕事をしなければいけませんから」
今回のテストは一日のみで、WRTの32号車アウディR8 LMSが1台だけ用意されており、富田とファン・デル・リンデは他のクルーとシェアをしながら参加した。初めてのミサノだったが、驚きも多かったという。
「僕がもっていたヨーロッパのコースとピレリの組み合わせの情報というのは、あまりグリップしないし、体力面では辛くないというものだったんですが、まったくウソでした(笑)。この2年間アウディに乗ってきましたし、鈴鹿10時間ではアウディでピレリも履いています。日本のコースがどれだけ辛いかを知っていたのですが、ミサノはその倍くらい辛かったです。横Gの振り返しが大きいし、もてぎのようなハードブレーキングもあるんです」と富田はミサノの感想を語った。
また、欧州式と日本式のコーナリングの違い、ヨーロッパ人とのブレーキ踏力の違いなど、アジャストにやや時間がかかったこと、近代のヨーロッパのレースではおなじみのインカットやコース外をつかう走り方などのアジャストにも苦労しながらも、ファン・デル・リンデの0.7〜0.8秒落ちで安定してラップすることができたという。
さらに最終的に、テスト終わりのロングランでは、まだ悩みながらもファン・デル・リンデの0.2秒落ちでラップし、そのタイムを見たバン・デル・リンデ、そしてチームも大いに雰囲気が盛り上がったという。
「初めて加わるチームでスタッフが“認めてくれる”瞬間って、空気が変わるんですよね。その瞬間をこのテストで作れたのは嬉しかったですし、期待感をもって開幕戦にいけると思います。でも、日本のファンの皆さんの反響含め、想像以上にプレッシャーがかかりはじめました(笑)」
