Alex Garcia / Translation:AKARAG

 トヨタ8号車が3度目の優勝を果たした時、ふたつの思い出が私の心に浮かんだ。ひとつ目は2016年の出来事なのは明らかだ。「パワーがなくなった!」中嶋一貴の言葉が4年経っても私の頭の中でこだまする。私は何が起きたのか信じられなかった。終わりまであと数分だった。それは素晴らしいものになるはずだったレースの残酷な終わり方だった。接戦を演じた3つのマニュファクチャラーのうち、トヨタは他よりも戦略面で抜きん出ていたのだ。

 2番目の思い出は、ケルンにあるTOYOTA GAZOO Racingのヨーロッパの拠点を2017年の春に訪れたことだ。(そこはまだTMGと呼ばれていた)そこには技術的観点から感動させられたことが多くあったが、最大の驚きはエントランスのすぐ横にあった。彼らが何年にもわたって作り上げてきた伝説的なクルマ数台とともに、トロフィーが飾られたガラスのキャビネットがあった。トロフィーが置かれていない空いたスペースがあったが、そこには2016年のレースの写真が飾られていた。それは優勝車ポルシェ919がトヨタ8号車を抜く瞬間を撮影したものだった。私は写真に感銘を受け、なぜそこにあるのかを尋ねた。基本的にその写真はトヨタがル・マン優勝にどれだけ近づいていたかを示していた。「我々はあと少しのところだったのです!」

 この時の敗北は、好ましくない瞬間として扱われただけではなかった。代わりにチームは、ル・マンでの最大のレッスンとして捉えたのだ。翌年、TMGは3台で参戦したものの、もうひとつの試練に耐えることになった。3台での参戦はTMGが決定したことで、日本のトヨタではなかった。彼らはどうしてもル・マンで優勝を飾りたかったので、社内の多くの人たちが3台目のマシンを作るのに十分な資金を集めるために余分な時間を費やした。それでも十分ではなかったが、チームは決して諦めなかった。これが2017年に私が感動を受けた姿勢だ。

 ル・マンで優勝することがどれだけ難しいことかを忘れてしまうことは簡単だ。だが正確に記憶したい者は、7号車を見る必要があるだろう。小林可夢偉、マイク・コンウェイ、ホセ~マリア・ロペスによってドライブされた7号車は、何年にもわたってあらゆる種類の困難な挑戦と状況に見舞われていた。ル・マンは今も非常に難しいレースで、勝利を保証してくれるものは何もない。そのことを覚えておく必要がある。そしてホンダやマツダなど他のマニュファクチャラーが公にトヨタを祝福しているのを見る時、ふたたび気づくのだ。これは非常に特別な瞬間なのだと。

 時間が経つのは早いものだ! 私が前回伝説のサルト・サーキットを訪れた当時、トヨタはまだル・マン24時間で勝てていなかった。だがパズルの正しいピースがそこにはあった。教訓は学ばれ、彼らが優勝するのは時間の問題だった。3回の優勝が示しているのは、優勝は思いがけない幸運などではないということだ。トヨタは1回目と2回目の優勝の後も、継続的に改善に努めてきた。TS050は新たな成功とともにル・マンに別れを告げる……。そして私は、新たなトヨタGRスーパースポーツに何ができるのか見るのを楽しみにしているのだ。

2020年ル・マン24時間レースのスタート前セレモニーに登場した、トヨタが開発中の市販ハイパーカー、GRスーパースポーツ(仮称)
2020年ル・マン24時間レースのスタート前セレモニーに登場した、トヨタが開発中の市販ハイパーカー、GRスーパースポーツ(仮称)

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