Kota Sera

 しかし、することがなくなったわけではなく、開発の焦点が他に移ったにすぎない。LMP1時代は『熱効率』が開発の焦点だったが、ハイパーカー時代は『ドライバビリティ』に軸足が移っているという。

「ドライバーが扱いやすいエンジンって何だろう、という“原点”に戻って開発をしています。昨年はハイブリッドのデプロイメントスピードが120km/hでしたが、今年は190km/hになりました」

 2021年はドライタイヤ装着時に120km/h以上、ウエットタイヤ装着時は140km/h以上にならないと、モーターのアシストを行うことができない決まりだった。2022年はドライ/ウエットとも、190km/hにしきい値が変更された。

 LMP1時代はフロントとリヤ合わせて最大300kW(408ps)の出力を発生させることができたが、ハイパーカー規定ではモーターの搭載位置はフロントに限定され、モーターの最高出力は200kW(272ps)に規定されている。190km/h以上になってフロントモーターを駆動したときのみ、4WDになる仕組みだ。

「190km/hまでは普通のリヤ駆動ですので、いかにドライバーが意図したとおりにエンジンで駆動力を出せるか。具体的に言うと、モーターはものすごい周波数でコントロールできるのですが、エンジンは回転数に応じて爆発回数が決まるので、素の素性としてドライバビリティを上げていかないと、モーターのトラクションには叶わない。そこが、自分たちがとくに注力した点になります」

 モーターは1万分の1秒(0.0001秒)単位で制御することが可能だと、量産車の世界では言われている。つまり、1万Hzだ。一方、エンジンはそんなに緻密には制御できない。例えば6000rpmで回っているとき、クランクシャフトは1秒間に100回まわっている。クランクシャフト2回転につき6気筒が1回ずつ爆発するので、1秒間に300回、言い換えれば300Hzで、0.0033秒ごとに制御の手を打てることになる。モーターの制御精度とは桁違いだ。

 エンジンだけに頼るシーンでは、この0.0033秒ごとのチャンスを活かし、スムーズにトルクを発生させてドライバーの要求を満たさなければならない。

「ドライバーのペダル操作から、要求トルクを判断します。その要求に対していかに追従できるか。スロットルオンした瞬間のディレイとか、スロットルを操作した際のドライバーの要求と実トルクの乖離具合などを指標に、良し悪しを判断して開発を進めています」

「とくに自分たちが気を使ったのはターボラグです。050はハイブリッドブーストが七難隠してくれたおかげで、熱効率にシフトしたエンジン開発を行うことができました。今回はターボラグも(モーターではなく)エンジンでカバーしなければなりません。ターボの選定などを進めることで、ターボラグは050の半分以下に抑えています」
(後編へ続く)

トヨタGAZOO RacingでおもにGR010ハイブリッドのエンジン開発を担当する佐藤真之介氏(GRパワトレ開発部 主幹)
トヨタGAZOO RacingでおもにGR010ハイブリッドのエンジン開発を担当する佐藤真之介氏(GRパワトレ開発部 主幹)

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