更新日: 2022.11.13 11:54
「これじゃ走りきれない!」ギヤを失ったフェラーリ、“即席の対処法”で劇的なタイトル獲得/WECバーレーン
カラドによれば、ピエール・グイディは交代前にフェラーリのエンジニアから状況の説明を受けたというが、140度にも達する油温の急上昇により、状況はさらに複雑化したという。
「問題があることは分かっていたが、正直なところ、乗り替わったときはどうすればいいのか分からなかった」とピエル・グイディは述べている。
「どうすればいいのか、何がベストなのか、できる限りマシンをセーブする方法がわからなかったんだ。だから僕はクルマに乗って、クラッチを使ってシフト操作を行い、4速ギヤを避けた。でもそうしているうちに、油温がどんどん上がってきてしまったんだ」
「僕は『これでは最後まで走りきれない!』と言ったんだ。そして、ハイ・ギヤを使うと、温度が少し下がることに気づいたんだ」
「シフト操作をすることなく、5速で何周か走ってみた。すると油温が下がってきて、正常な範囲に入った。だから、それがベストな方法だと理解したんだ」
ピエール・グイディは、ギアの破損を避けるためにシフトチェンジを最小限にとどめたが、ラップタイムは大きく落ちた。そしてチームは、背後からGTEアマのトップ集団が迫ってきていることを気にし始めた。当然、アマ勢に追いつかれて順位を下げるようでは、タイトルが危ない。
「1周12秒程度のラップタイム差で、LMGTEアマ勢に追いつかれる計算だったんだ」とカラド。
「結局、6秒から7秒くらいのタイム差でいけたけど、もし12秒落としていたら、おそらく彼ら(GTEアマの首位)が僕らのポジションでゴールしていただろうね」
ピエール・グイディも「あまり深く考えず、GTEアマ勢の前にいるために必要なギャップを教えてもらっていたら、必要以上に速く走ることができたんだ」と語っている。
「だから、コントロールしやすかったし、クルマが壊れるかどうかも現実的には考えなかった」
■「砂漠の中のオアシス」に見えたチェッカーフラッグ
さらにカラドは、チームにとってリタイアは本当に怖いことだが、必要であれば最後までやり遂げる決意であった付け加えた。
「世界選手権をリードしているときに、最後のレースで何ができるというんだ? クルマが息絶えるまで、走らせるしかないだろう」とカラド。
「もちろん、完全に壊れるまで、クルマをガレージに持ち込まないことだ。世界選手権なんだから、もしガレージに入れたらどんな後悔をするか……想像してみてほしい」
最終的に、ピエール・グイディはフィニッシュまでマシンをいたわり、さらにGTEアマの集団の前に1ラップ差でとどまり、世界選手権タイトルを獲得することができた。
「最後の15分間は、希望を持ち始め『できる』と思うようになった」とピエール・グイディは語った。
「『1時間半以上もこの調子なんだから、できるはずだ』とね。そして、(走行距離が)1周少なくなるよう、(総合トップの)プロトタイプに抜かれるのを待った。チェッカーフラッグを見たときは、砂漠の中のオアシスのようだったよ」