──SLSから始まったメルセデスAMGのGT3車両ですが、2016年には現行のGTへ変更になり、2020年にEvoが登場しました。そろそろホモロゲーション期間が終了間近となってきましたが、すでに次のモデルの開発に入っていたりするのでしょうか?
SW:すでにカスタマーチームにはEvoを発表した際に最長2024年までと告知をしてある。当初は2024年に新モデルのGT3デビューを予定していたのだが、諸事情で2025年に延期になった。
まずは、AMGの量販車の開発チームとホモロゲのベース車両の件でさらに詰めないといけないのだが、Covid-19の影響を受け1年延期せざるを得なくなった。
ただ、2025年からはFIAのGT3の新レギュレーションが導入となり、さまざまな事項に変更が生じることから、当初痛手と思われたこの1年の遅延は、むしろAMGとしては良いことなのではと思っている。
──ところで、2024年にはWEC/ル・マンでもGT3マシンの参戦が可能となります。メルセデスといえば、1999年のCLRを最後にル・マンから遠ざかっていますが、再びシルバーアローがル・マンを走ることについては、どうお考えでしょうか?
SW:メルセデスAMGはもちろんのこと、GT3で参戦するチームのすべてがル・マンに参戦を希望しているのではないだろうか。カスタマーチームからのル・マン参戦希望がほぼ全チームから私へと入っているのは事実だ。
メルセデスAMGとしても再びル・マンへという希望と目標を持っているのは間違いないが、ACOやFIAとの今後の話し合いでGT3がどのようなコンディションで参戦になるのか、動向を見守っている。
また、これだけ世界中のGT3のチームがル・マンを走りたいと希望する中、メーカーごとに割り振られる参加可能台数にも非常に限りがあると考えているが、たとえ各メーカーの参戦台数が1~3台という少数だったとしても、弊社のカスタマーチームの参戦が確保できるようにメルセデスAMG側としても全力で交渉に当たりたいと考えている。
ハイパーカークラスではないももの、カスタマーチームとともにル・マンへの復帰の夢を叶えたいと願っているし、もしそれが叶うのであれば、メルセデスAMGにとって新たな歴史の章を開くことになるだろう。

■電気自動車レースシリーズへの展望
──ところで、DTMでは数年後の稼働を目指して電気自動車のレーシングカーを開発している真っ最中です。ドイツの街角ではメルセデス・ベンツの電気自動車のEQシリーズを見掛ける機会が日々増えていますが、メルセデスAMGのカスタマーレーシングとしての電気自動車のDTMへの興味はどのようなものなのでしょうか? メルセデスはすでにフォーミュラEから撤退していますが……。
SW:基本的には弊社としては、電気自動車は今後さらに重要になるテーマでもあるのは間違いない。ただ、実質的に『いつ』モータースポーツ界に電動化が本格化するのか、ということが問題だ。
とくにバッテリーについてはまだ現時点では懐疑的で、果たしてバッテリーで稼働するレーシングカーが最適なのか、それともガソリンに代わる燃料の開発やレースでのランニングコスト面での問題が先に解決策となるのか……。現行で世界のGTレースのスタンダードとなっているGT3マシンのポテンシャルとレベルが同等のレースが行えるテクニカル部分の開発の発展性にもよると思う。現時点では残念ながら、その解決策はまだ見付けられていない。
FIAのE-GT、ゲルハルト・ベルガーとITRでは独自のEVモデルといったコンセプトモデルが発表されている。ITRのDTMのEVマシンはシェフラーが開発しているのだが、我々メーカー側が望むような『アイデンティティ』をマシンに活かすことはできない。メーカーとしての『アイデンティティ』が出せずAMGとしての個性やポテンシャルが見いだせないとなると、あえてワンメイク化されたEVのDTMには現時点であまり利点を感じないし、価格面についても厳しいと感じる。
だが、AMGとしては今後もオープンな立ち位置に身を置き、動向を見守る。レーシングカーも量販車においても電動化については避けては通ることのできないテーマのひとつとなっているだけに、FIAやITRとの話し合いには積極的に参加している。
