更新日: 2016.04.13 17:02
アウディ、WEC開幕戦に新型R18を2台投入。史上もっともパワフルかつ効率に優れたマシン
より燃料消費を抑えたV6 TDIエンジン
ハイブリッドドライブシステムの開発陣が、2016年シーズンに向けて、パワーアップを容認された一方で、ウルリッヒ バレツキー率いるエンジン開発チームは、真逆の課題に直面することになりました。4リッターV6エンジンが使用できる燃料はかなり削減され、その結果パワーを落とす必要が生じたのです。この点に関して、2つの要素を考慮する必要が生じました。アウディがより高いハイブリッドのエネルギークラスに切り替えた結果、より多くのエネルギーを回生できるようになったレースカーに対し、レギュレーションでは使用燃料の削減を求められたのです。それは数字にして3%というものでしたが、同時に、もうひとつの変化が生まれることになりました。LMP1レースカーのスピードが年を追うごとに高くなった結果、速度をコントロールするために、FIA、WEC、およびルマンのオーガナイザーであるACOの関係者は、ハイブリッドのレースカーの使用燃料を削減する措置を採用したのです。「ラップタイムが速くなりすぎないように、自動車メーカーとして、この措置は基本的に支持しています」とDr. ヴォルフガンク ウルリッヒはコメントしています。
Audi R18に搭載されるV6 TDIエンジンの基本コンセプトは、2011年までさかのぼります。ダブルフローVTG単一ターボチャージャー、120度のシリンダーバンク角度、Vバンクの内側にレイアウトされた排気系、および様々な革新機能を採用したV6 TDIは、非常に独創的なエンジンと評価されてきました。排気量は当初3.7リッターでしたが、2014年からは4リッターに増加されています。「エンジンの基本設計は6年間変わっておりません。それは、基本コンセプトが依然として有効であることの証明です」とウルフィッヒ バレツキーは語っています。「エネルギー効率が向上したおかげで、少ない燃料でも性能を発揮できるようになりました。」
とりわけ2016年モデルにおいては、ターボチャージャーがより軽量で効率的なものに換えられています。また、V6 TDIの外観も変わっています。個々のコンポーネントの配置を変えることで、新しいエアロダイナミクス コンセプトに対応するためのスペースを生み出しています。過給圧はレギュレーションにより制限を受けていますが、850Nm以上という最大トルクは変わっていません。エンジンの効率が向上したことで、燃料タンクの容量は従来比8%削減されて49.9リットルとなっています。
車両全体として大幅に効率的に
過去のモデルと比べると、最新のAudi R18の効率の高さは、注目に値します。2011年の第1世代のモデルと比べると、最新のV6 TDIの燃料消費量は32.4%も削減されています。2006年の最初のディーゼルエンジンモデルと比較すると、その改善はさらに劇的といえます。その年、アウディは初めてTDIテクノロジーをレースカーに適用しました。そしてこのテクノロジーにより、以来アウディは、ルマンで8度の優勝と、1度の距離記録更新を実現しただけでなく、2度の世界選手権タイトルも獲得することができました。最新のTDIエンジンを搭載したアウディLMP1レースカーは、ルマンにおいて初期と比べ燃焼消費量を46.4%も削減しています。その一方で、ラップタイムは、10年前と比べて10〜15秒も速くなっています。それはすべて、エアロダイナミクス、軽量設計、パワートレインの各分野でなされた技術革新の賜物なのです。
卓越した安全性
安全性の面でも、アウディのLMP1は、将来にわたってひとつの基準であり続けるでしょう。アウディは、レギュレーションに定められた厳格な要求を満たすだけでなく、独自の研究により、ルールを大きく超えた高い安全性を実現しました。アクティブセーフティ、すなわち緊急事態の検知と事故防止の分野では、ドライバーには数多くのツールが提供されています。FIA WECの規定では、コクピットにレースのコントロールフラッグシグナルを表示するドライバーインフォメーションモニターの設置が義務付けられていますが、アウディの場合さらに、ドライバーのために数多くのソリューションが用意されています。そのひとつがアウディレーザーライトを内蔵したマトリクスLEDヘッドライトで、最高速が340km/hに達するレースカーの照射性能を大幅に高めています。2015年以降、アウディのお客様は、第2世代のAudi R8において、レーザーライトを購入できるようになりました。マトリクスLEDヘッドライトは、いまや多くのアウディ市販モデルに搭載されています。
また、先進的なアクティブマトリクス式有機EL(AMOLED)スクリーンを採用した軽量でエネルギー効率に優れたカメラシステムによるデジタル式リヤビューミラーにより、R18はきわめて良好な後方視界を確保しています。2001年シーズン以来、アウディチームのドライバーとピットクルーは、先進的なモニタリングシステムを使って、タイヤ空気圧をチェックしてきました。さらに、Audi R18においては、走行条件に応じて自動的に、ハイブリッドシステムを連動したブレーキ力の分配制御を行う仕組みになっています。
事故が避けがたい場合には、受動安全装置の各システムが作動します。車両のモノコックは、アルミのハニカムを主とした炭素繊維強化プラスティック(CFRP)の強固な構造体になっており、フロントノーズがエネルギーを吸収する役割を果たします。2011年にアウディは、他の自動車メーカーに先駆けて、シングルピースのモノコックを初めて採用しました。そのセルには側面からの衝撃を吸収する工夫がなされており、コクピットの壁に内蔵されたザイロン(防弾チョッキなどにも使われている強力な合成繊維)の層により、外部からの侵入を防いでいます。リヤから衝撃を受けた場合には、トランスミッション部分のCFRP構造より衝撃エネルギーを吸収します。2014年シーズンから使われているダブルホイールテザーにより、アクシデント時にホイールがクルマから外れる危険も減少しました。回転運動をするホイールには、走行時、高い慣性力が働いているため、ホイールが離脱すると大きな危険が伴います。高電圧プロテクションシステムにより、ハイブリッドシステムの電流も安全に制御することが可能になっています。モータースポーツにおいて、事故防止、および事故後の安全対策のために、これほどのテクノロジーが投入されている例は、他にないでしょう。
走行性能においても安全性の面でも、またエネルギー効率や技術革新といった分野でも、LMP1レースカーは、類まれな存在であり続けており、ここで開発された先進テクノロジーの多くは、未来の自動車のために活用されていくことになります。