まさに“怪我の功名”ともいうべき状況だが、チームとしての変化はBoPの一件だけが契機だったわけではない。冒頭では可夢偉チーム代表の貢献ぶりを高く評価した佐藤社長だが、同様に昨年からマネジメントに加わった中嶋一貴TGR-E(トヨタGAZOO Racing・ヨーロッパ)副会長の働きにも、大きく助けられているようだ。
「もう、一貴は絶大ですよ」とTGR-E会長も務める佐藤社長は絶賛する。
「表にはまだ見えにくいですが、結構大きな事業ビジョンについて、日頃から一緒に相談しています。WECのスキームはもちろんですが、たとえばドライバー育成をどう進めるかなど、彼自身の経験も含めてアドバイスをもらったりしながら、いろいろな作戦を立てています」
佐藤社長いわく、一貴副会長は「パートナー」。それぞれがクルマづくりの経験とドライバー経験を活かすことによってものごとが円滑に進められているようで、「ACOとやりとりするときも、基本的には彼と一緒に行って『カズキとコウジ』で対話をします(笑)」という。

富士でマニュファクチャラータイトルを決めたTGR WECチームは11月、ドライバーズタイトル決定の舞台となるバーレーンへと向かう。フェラーリ499Pも数字上は可能性を残しているが、実質的にはトヨタの2台、8号車と7号車によるタイトル争いが展開されることになるだろう。
最終戦の見どころを問われた佐藤社長は、「ウチがいかにガチか、ということでしょう」と即答。富士の決勝では、背後に僚友を従えながらも首位のポルシェにアタックし続けたホセ・マリア・ロペスの“忖度なしの走り”に、さまざまな意味でトヨタのピット内は盛り上がっていようだ。
「今日だって本当に何回『ホセ!』って叫んだことか(笑)。『おいホセ! ホセ〜ェ!』って、ピットで10回くらいは言ったかな(笑)。そういうチームなので。だから、(最終戦も)面白いと思います」
果たして最終戦で彼らは、どんな“スポーツ”を見せてくれるのだろうか。
※後編に続く