更新日: 2019.10.28 00:43
抑えきれなかったレース後の涙。パルクフェルメで山本尚貴の心を突き刺したダンディライアンチームからの言葉
「マシンを降りて杉崎さんがピットウォールのところに来てくれた。今回の僕は自分の力が及ばなくて実力が足りなかったので、杉崎さんに申し訳なくて謝ろうと思ったんです。ですけど……。杉崎さんが涙を流して『速いクルマを作れなくて申し訳なかった』と先に謝られてしまって……。自分が負けたことよりも、エンジニアをそういう気持ちにさせてしまったことが……ドライバーとして、ものすごく申し訳なかった」
杉崎エンジニアはレース後の取材にも、自分を責める言葉を残した。
「悔しいというか、情けない。勝てるドライバー、チャンピオンを獲れるドライバーに獲らせてあげられなくて、あそこまで苦戦させてしまって……。責任を感じています。情けない」
チャンピオンを預かるチーム、移籍して2年連続でタイトルを争うドライバー。それぞれ双方に、外部には分からない大きな重圧がのしかかっていたことがうかがえる。
「杉崎さんにそんな言葉を言わせてしまって、村岡(潔)監督にもメカニックにも、チームに本当に申し訳ない気持ちになって。この鈴鹿に向けてのチームの期待も分かっていたので、その期待に応えられなくて……。杉崎さんの言葉が胸に突き刺さって……辛かったですね……。苦しかった」と、山本はその時の心境を話す。
パルクフェルメの山本は杉崎エンジニアの言葉を聞いて、あふれる涙を止められないまま、ライバルとして戦った新チャンピオンのキャシディの元へ向かった。
「去年、ニックは今回の僕のような気持ちになっていたのに、レース後、一目散に僕に握手を求めて健闘を讃えてくれた。あのニックの姿は、本当に心から尊敬すべき姿でした。今度は僕が彼をきちんと称えないといけないと思いました」
「ニックがいてくれたからこそ自分を高めることができたし、本当に彼のことを尊敬しています。今はとても悔しいけど、一度リセットをかけて、そしてまた、改めてこの場所に戻ってきたい。こうして1ポイント、2ポイントをかけてタイトルを争うという緊迫感は味わった者にしか分からない心境があるけど、でも、これを経験しないと強くはなれない。こういう経験をさせてくれたチームに心から感謝したいですし、今年はチームの努力に報いることができなかったので本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。杉崎さん、そしてチームに今度は『ごめん』ではなくて『ありがとう』と言わせてあげたいです」
今年の山本はスーパーフォーミュラ以外にもF1でトロロッソへ同行し、レッドブルのファクトリーでのシミュレーターテストを2回行い、そして鈴鹿でのF1日本グランプリでFP1を走るなど、かつてない多忙なシーズンを過ごした。まだスーパーGTの最終戦が残っているが、今年のスーパーフォーミュラもまた、今後の山本にとってかけがえのない貴重な糧となるに違いない。