更新日: 2020.12.10 14:36
【SF最終戦富士特別連載(2)】“極寒の富士”で悩めるタイヤウォームアップと究極のスピード域
もうひとつ気になるのは寒いコンディション下での“スピード”だろう。一般的に気温が下がると空気密度が高くなるため、エンジンの出力が上がり、さらにダウンフォースも増える。その観点からいくと、12月の富士では最高速とラップタイムが向上し、かなり高い確率でレコードタイムが期待できるだろう。
2019年の第4戦富士(7月13、14日)では、予選、決勝ともにウエットコンディションだったため、参考値にはなりにくいが、フリー走行での最高速は306.818km/hを記録。2020年の3月に富士で行われた公式テストでは310.345km/hと、夏場と比較してかなりスピードが上がっている。
3月のテスト時の気温がだいたい14℃前後であり、おそらく12月に行われる第7戦も同じぐらいの気温か、それ以下が想定される。TEAM MUGENのチーフエンジニアを務めている星学文氏は「最高速は3月のテスト時+2〜3km/hではないか」との見方を示す。
「(最高速は)伸びるとは思います。何%ぐらい上がるのかの想定は難しいですが、3月のテスト時で310km/hならば、おそらく同じぐらいか+2〜3km/hぐらいになるのではないかなと思います」
一方で、TRDのパワトレ開発部長を務める永井洋治氏の見解は少し異なる。
「たしかにパワーは上がりますが、ターボ(過給機付きエンジン)はNA(自然吸気エンジン)に比べて気温が低いときの恩恵を受けにくい傾向があります。インタークーラーや吸気系の冷却に効果はあるけれど、その分、燃焼圧が上がり、きつくなる部分も増える。さらにダウンフォースも増すので、必然とドラッグ(抵抗)も増えます。最高速というのは仮にエンジンの性能が1%上がっても1km/h上がるわけではない。正直、(速度に関しては)そんなに動くものではありません」
「ただし、ラップタイムは大きく変わると思います。空気密度によるダウンフォース量の増加はかなり大きい。仮に夏場と同じセッティングであれば、ダウンフォースが増える分、コーナリング速度は増す方向になります」と永井氏。
永井氏の見方では最高速の伸び代はあまり期待できないように思える。しかし、ここで忘れてはいけないのは舞台が富士スピードウェイであるということだ。富士はそのメインストレートの長さゆえにセッティングの方向性が国内の他サーキットとは異なり、ダウンフォースを削る方向になることが多い。
寒い時期という条件下でダウンフォースが必然と増えるのであれば、セッティングでダウンフォースを削り、ストレート速度を伸ばすことは可能なのではないだろうか。
「もちろんそれは可能です。ダウンフォースがある一定のラインまであればいいと判断するならば、あとは車体側のセッティングでウイングを寝かせて、ドラッグを減らす方向にすることはできます。そうすれば最高速は伸びるかもしれません」(永井氏)
これまでの時期と違って、冬場のダウンフォース増のメリットを有効活用して、セクター3などの中低速コーナーでタイムを稼ぐのか、それともいつも以上にローダウンフォースセットにしてストレート速度を高める方向を選ぶのか。これまで以上にセッティングの方向性の分かれ目が勝負を左右することになるかもしれない。
いずれにしてもラップタイムは上がることが予想され、タイヤウォーマーの導入でウォームアップの懸念も解決されるとなれば、これまでの富士では見たことのないハイスピード下でのSF19のバトルを見ることができるはずだ。
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