ThreeBond Drago CORSE 2020スーパーフォーミュラ第7戦富士 レースレポート
ThreeBond Racing with DRAGO CORSE
2020年度全日本スーパーフォーミュラ選手権レポート
2020 最終戦
全日本スーパーフォーミュラ選手権シリーズ最終戦が、12月19日~20日、静岡県の富士スピードウェイで開催された。
富士スピードウェイは、ドライバーのタチアナ・カルデロン選手(以下、カルデロン選手)にとって、開幕前の3月に行われた合同テスト以来のコースである。
シリーズ第4戦以降、日本国内に滞在し続けているカルデロン選手は、改めて車載映像の確認やシミュレータでの練習など、予習を重ねてレースウィークに備えた。「タチアナ選手は、速く走るために、普段から何かをしないではいられないタイプなので、レーシングカートに乗せるなどを含め、いろいろな練習をさせました」と道上監督。
異例の12月中旬開催となった週末の富士スピードウェイは、気温、路面温度が共に低下し、非常に難しいコンディションとなった。
フリー走行
カルデロン選手は、12月19日(土)午前に行われたフリープラクティス1で快調にタイムを縮め20台中12番手、トップから1秒417後れの1分22秒280を記録した。しかし気温、路温が急激に低下した午後のフリープラクティス2では、他車がタイムアップする中でタイム短縮ができず、トップから1秒410後れの1分22秒118を記録するに留まり、20台中19番手に終わった。
「セッション前半は悪くない感じだったのですが、後半は路面温度が5度を切るまで急激に低下したせいか、タイムアタックのシミュレーションをするため2セット目のニュータイヤでコースインしたところ、『タイヤが変だ』と言って、タイムを出すことができませんでした。他のチームでも同様のことが起きていたようです」と伊与木仁エンジニアは状況を説明した。
公式予選
明けて12月20日(日)午前10時5分、カルデロン選手は公式予選Q1(Bグループ)に出走した。気温、路面温度とも上昇したためかマシンの状況はフリープラクティス2よりも改善されており、カルデロン選手はトップから0秒976差の1分21秒674を記録した。しかしQ1突破には0秒476足りず、このままスターティンググリッドは19番手に決まった。
決勝レース
決勝レース前のウォームアップ走行で火災事故が発生したため、決勝レースのスタートは予定から22分遅れることとなった。
午後2時47分、フォーメーションラップがスタートした。ところがカルデロン選手は、ダミーグリッド上でギヤを入れることができず、走り出せなくなってしまった。マシンはそのままピットロードへ押し出され、全車がスタートした後、ピットから行われることとなった。
チームはトラブルの原因を探ろうとしたがスタート時刻も迫っていたので、後輪をジャッキアップして後輪に負荷がかからない状態でギヤを入れ、後輪を回転させたままジャッキダウンして緊急発進させることにした。
カルデロン選手は2度発進に失敗したが、スタートから1分30秒以上経過した段階で発進に成功、最後尾からピットアウトしてレースを始めることとなった。
ほぼ周回遅れでレースに加わったカルデロン選手だったが、走り始めると上位と遜色ないペースで走行し始めた。
「レースでのペースには私も驚きました。あんなペースで走り始めると思わなかったので、もっとプッシュしろと指示しました。スタートでトラブルが発生したからもっとエキサイトしているかなと思いましたが、非常に冷静で『わかった』と答えてきました」と伊与木エンジニア。
カルデロン選手は15周終了時点でピットインし、2セット目のタイヤに交換してレースに復帰すると、さらにペースを上げ18周目にはセクター2で途中経過ながら、全体のファステストラップを記録して周回を重ねた。このタイムは38周目にニック・キャシディ選手が更新するまで全体の最速だった。
スタートでの出遅れがあったためカルデロン選手は結局、1周遅れの17位で完走、チェッカーフラッグを受けた。
今大会をもって2020シーズンは終了となるが、チーム・ドライバー共にスーパーフォーミュラ参戦初年度はノーポイントに終わった。悔しいシーズンであった反面、スーパーフォーミュラのレベルの高さ、ポイント奪取をはじめ、勝つことの難しさを痛感させられたシーズンであった。来年度、今年の経験を必ず活かしたい。
タチアナ選手コメント
「富士スピードウェイは合同テストで走って以来でしたが、今大会はとても気温 が低くてトラックコンディションも違っていれば、クルマの状態が合同テストの時より進歩していることもあって、ドライビングの感触が異なり驚きました。公式予選では自分では納得できる走りができたと思います。結局19番手に終わってしまいましたが、クルマの状態はとても良く、自分のドライビングもうまくいったのでうれしい結果でもありました」
「スタートは、とても残念なことになってしまいました。結局ピットでクルマも持ち上げて走り出すという、今まで経験したことのない方法でレースに加わりました。残念ではありますがモータースポーツにはよくある話です。最初から大きく遅れてレースを始めることになったものの、レースではクルマの調子も良く、自分でも非常に良いドライビングができたと思います」
「残念だったのは最初から単独走行することになったので他のクルマとファイトできなかった点です。思っていたような結果を残すことができませんでしたが、チームはみんな良い人達ばかりで、すごく楽しい1年を過ごすことができました」
道上監督コメント
「最終戦ということで期待していましたし、レース中のラップタイムが良かっただけに、しっかりスタートさせてあげられなかった点、タチアナ選手に非常に申し訳ないことをしました。でもタチアナ選手は『これがモータースポーツだから仕方がないよ。わたしは大丈夫よ』と言ってくれて、逆に励ましてもらいました」
「今年はコロナの影響で彼女は2度レースできなかったり入国するために大変な思いをしたりして、日本で初めてレースするには練習の時間が足りませんでした。コースを習熟していればもっと違った結果になっていたと思います。でも今日のレースラップを見ていたら、あるときはセクターでトップに立っていましたし、アベレージでいけばトップ10に入れるようなペースで走っていて驚きました」
「1年を振り返ると、我々に対する気遣いであったり、ファンに対する振る舞いであったりを見て、プロフェッショナルだなと感心することがすごく多かったです。彼女もこのカテゴリーが大好きになってくれて、日本のレースにも馴染んで、大勢の皆さんがファンになってくれましたし、できれば来年も彼女と一緒にレースがしたいと思っています」
伊与木エンジニアコメント
「3月から富士を走っていませんでしたが、しっかり準備をしたので割とすんなり走り出せました。フリープラクティス1で12番手という結果は充分です。午後はタイムが伸びませんでしたが、それでも僅差で続いていて充分戦えるだけのモノをつかんでいるように見えました」
「予選も僅差で、Q1突破できなかったのが残念です。決勝のペースは本当に良かった。クルマは特に何かを変えたというわけではなかったのですが、彼女は自分の中に、まだまだ速くなる余力を持っていたのだと驚きました。足りない面もありますが、ここまでのポテンシャルを示す女性ドライバーは今まで見たことがありません」