更新日: 2024.05.02 12:02
【GT300マシンフォーカス】最新フェラーリ296 GT3はまるでLMP3? 目指すはアンダー傾向を抑える“脚を動かす”クルマ作り
かつて488GT3エボ2を走らせた時代は、どのGT3規定モデルもグリップの高い日本の路面とGTのタイヤ競争による高いピーク性能のタイヤにより、セッティング可能幅のなかでハード側に寄せた狭い領域で走らざるを得ないのが常態だった。
そのためセット幅は上限一杯。車高変動を抑制し空力に頼って走るのがタイム向上の近道となり、どのGT3マシンも車両の前傾姿勢でダウンフォースを確保する『レーキアングル』の採用がトレンドになっていた。
その時点から「フェラーリに関しては、そちらではないのでは」と考えていた田邊エンジニアだけあり、この296 GT3でも方針を維持したよう。その部分はGT300クラス参入に際し「(当時のGT500とは異なり)タイヤ開発競争のコンペティションには参画しない」と宣言して供給を開始したミシュランの特性も大きく貢献していそうだ。
「個人的にも、うまい具合にGTワールドチャレンジがありました。ピレリタイヤと(当時のGTにおける)ヨコハマタイヤと、ずっとコンペアしながら(比べながら)走らせられたことが幸運でした。なので、その差が埋めやすいです。『このタイヤだったら、このあたりだな』という部分が見やすいのは、もう環境に恵まれましたね」と田邊エンジニア。
「よくケイとも話しているのですけど、GTワールドチャレンジの鈴鹿でピレリタイヤを履いて(1分)58秒台を出したときに『もうこれ、いけるな』というのがふたりのなかにありました。今は、そのベースをずっと継承しているという感じです」
そんな不動のエースは、基本的なセットアップの好みとして「僕もすごく好きなんですけど、やはり若干オーバー(ステア)くらいのクルマが好きですね」と、チーフエンジニアとも息ピッタリの特性を求めるという。しかし296に関しては「世界的に見ても少し弱アンダー傾向ではあるクルマだと思います。最初に走らせたときも、やはりアンダー傾向が強かったです」という。
296 GT3でもミシュランの特性を活かすべく脚を動かし、アンダー傾向を抑えるクルマ作りを進めている。また、ジオメトリー的にもアンチダイブを許容する方向性であり、実際に開幕戦の岡山でもブレーキング時にはノーズが沈むことを“無理に抑えていない”雰囲気が感じられた。
そんな方針も功を奏し、開幕戦岡山でスタートからロングスティントを行い、一時はクラス2番手まで浮上した45号車は、後半で期待のファクトリードライバーが実戦デビューを飾ると、ポイント圏内まであと一歩の11位でフィニッシュ。開幕前公式テストの富士ではクラッシュも喫していたワドゥだったが「それは若さゆえです。無理するところの境をうまくコントロールできれば、ああいったことも起きないのかなという感じはします」と、田邊エンジニアもその速さと潜在能力に期待を寄せる。
「彼女もまだ『アンダー傾向の強いクルマ』という先入観の乗り方をしているのかなという感じはしています。ケイが欲しいところでクルマを組み立ててはいるので、その部分がもしかしたら少し違和感があるといいますか……、まだ彼女のドライビングで見つけられていない部分は、そこなのかなという感じはしています」
だが、そこはファクトリードライバー。エンジン出力に関してはおなじみBoP(性能調整/スーパーGTでは参加条件)で縛られ、岡山などは「ギヤレシオが全然合わない」シチュエーションが多々発生するというが、そんな場面で「逆にワークスのリルは『よくわかってるな』と思うときがあります」と続ける。
「ケイと比べると『なぜこのコーナーで違うギヤを使っているんだろう』と思っていたら、狙ってわざとひとつ下のギヤで走れるように、ラインを変えて走行したりしていて『やっているんだ』と、やはりワークスは知っていると思いましたね。逆にケイもそのあたりは勉強になっています。お互いに『なるほどな』という話になることがありました」
こうして実力者同士の組み合わせで走り始めた296 GT3。エアロ効率の高いモデルだけに、空気密度が下がりサクセスウエイトが増えてくる夏場に向けては「その部分は……、暑くなり、空気が薄くなったところでどうマイナスに振ることができるのかなという怖さが少し(苦笑)」と、すでに今季の追加重量で51kgを搭載し、BoP重量の45kgと併せて1371kgとなっている車両重量を気に掛ける。
しかし、タイヤへの優しさは予選Q1からQ2への『マーキング1セット』義務でも、もともとのミシュランの特性を含めグリップピークの落ちが穏やかであり、ドライバーに対しても余計な負担や不安を取り除くことに繋がる。そして第3戦の鈴鹿はクルマの特性を考えても“狙いにいける”サーキットとなりそうだ。
「タイヤも、ミシュランさんは鈴鹿の夏場はすごく強いので、タイヤを見つけて、うまくハマればもう何も考えずに多分(笑)。他の要素が入らなければ、鈴鹿はいいところ……勝てるかそこまでのモノを狙いたいです。うん、勝てるように準備はしておきたいなと思います」