基本的に初号機から「できるだけシンプルに、要素数少なく作る」というコンセプトを掲げていた木野氏は、メインフレーム以外、リヤセクションのトラス組サブフレームなど精度が要求される部分も含めてつちや内製とし、独自設計のステアリングギヤボックスや、同じくアルミ削り出しの前後アップライトにより、サスペンションのレバー比もapr製とは若干異なる仕様に。そして何より新たな調整機構を採用していたアンチロールバーでは、各種ロッカー類を必要とするサードダンパーを“不採用”としていた。
「僕は(サードダンパーが)ナシならナシのやり方があるというのは今でも思っているので、そういった意味での考え方は今でも変わっていません」と前置きした木野氏だが、今回の2024年型への更新に際し、前後ともにサードエレメントを追加している。
「オートスポーツの本誌でも取り上げてもらったとおり、今季からサードエレメントが入ったのですが、あったらあったでやはりできることが増える実感はあり、楽になった部分はあります。でも、なかったらまったく走れないかと言われたら、そういうものでもない……とも思っています」
前述の2022年型初号機設計当時の木野氏のコメントを振り返ると、当初の“サードダンパーレス設定”に関しては次のような考えを明かしていた。
「車両が軽くダウンフォースへの依存度が大きいフォーミュラと、相対的に重いGTでは事情が違います。例えば鈴鹿のヘアピンで2Gが出ていたら、スーパーフォーミュラなら130Rで4Gくらい出ます。でもGTでは2Gが2.5Gに上がる程度。サードダンパーはピッチングを抑制することで車高を制御し、ダウンフォースを安定させるものなので、その重要度が異なり、サードダンパーを使わないなら使わないなりに走らせられるはずです」
その一方で、このGT300規定GRスープラに搭載される2UR-Gは、エンジン単体重量が重いヘビー級ユニットとして知られ、連載の前回で触れた31号車apr LC500h GTとの対比では、GRスープラはホイールベースが非常に短い車種でもある。メインフレームを共有するGR86やLC500hとの対比では、GRスープラの2490mmに対し2650mm(GR86)、2870mm(LC500h)とその差は歴然だ。

「ベースから5%伸ばすことが認められていても、現代のエアロダイナミクスを床下で稼ぐ現代マシンとしてはかなり短い部類です。さらに言えばMCの方がもっと長いですからね。前後ライトにホイールが被っているMCでも2750mmあります。その意味でMCは『レーシングカーっぽい』ホイールベースをしていますが、やはりGRスープラのディメンションを考えたとき、ピッチング方向の動きが非常に弱い。その点ではサードエレメントの採用は楽になる方向です」
フロント側を例に挙げれば、大きなエンジンブロックの前方に配置するべく、プッシュロッドとダンパーをつなぐロッカーアームからリンクを伸ばし、セカンドロッカーを介して左右からサードダンパーを挟むのがオーソドックスな構成となるが、この2024年型2号機では左右にロッドを持つスライダー式とし、減衰ではなくパッカー/バンプラバーで制御して引く(プル)方式とした。
「サードエレメントも、これを付けたくてやったわけでなく、まずオイルタンクの位置を変えたかったんです。それも重量配分ではなく、クラッシュした際に毎回壊れてしまうのを防ぐためでした。オイルタンクが壊れ、下手をしたらエンジンまで押してしまい、ものすごい出費が発生する……ということを防ぐためです。ですので、サバイバル性と言いますか、オイルタンクの位置を変えた結果として場所ができました。場所ができたら『付けようか』と、そういった順番です」
折りしも、2023年には規定変更の影響で床下のディフューザー面積と跳ね上げが抑制され、エアロ特性として少しマイルドになる方向性……クルマの姿勢に対してダウンフォースの出方が穏やかになる点でもプラスだったよう。

その意味でも「何ひとつ共通部品がないくらい」に後半セクションが別のクルマに生まれ変わったHOPPY Schatz GR Supra GTは、脚の設定やスプリングのレート、減衰の設定などにも大きな変化が出そうなモノだが、現状はそれよりさらに“浦島太郎”的な現象が立ちはだかっているという。
「そこに関して言うと、正直タイヤの変化の方が大きくて(苦笑)。やはり半年間お休みして、なおかつシーズンオフテストもほとんど参加することができませんでした。その時間でヨコハマタイヤさんの毛色がだいぶ変わっていました。『なんか昨年までとフィーリングが違う』というところで、開幕前のテストから模索しつつ、タイヤ屋さんの方でもいろいろとアジャストをしてもらう……というのを繰り返しながら今に至っています」と続ける木野氏。
「そうなると(事象の)切り分けも難しく、わかりやすい比較・検証というのが、なかなか今はこのコンペティションタイヤの世界ではしづらいというのが難しいところです。それでも今季は尻上がりに、レースを経るごとにリザルトが出ていくような、そういったストーリーにはしたいなと思っています」




