先に触れたエンジンに関しては、本来ならデザイナーとして「シンプルさを優先」し、大排気量のNAエンジンを選択したかったという福田エンジニアだが、最終的には設計当初の構想を破棄してタービンやインタークーラーなどの補機類とパイピングを伴う直噴ツインターボがチョイスされた。
「当初は熱害などもやはり出ましたね。あとはターボということで配管類が増えてしまうので、補機類と合わせると結局、大排気量NAエンジンとそう重量は変わりません。パイピングがあるのでロッカーも自由に置けなかったり、上部のボックスがあることでステアリングもベベルボックスを使ったカタチでいかざるを得ませんでした。作る前の時点で(重量配分)50:50を目指したいという話はしていましたけど、周りからは『難しいのでは』と言われていたなか、それでも燃料を載せていない状態で51:49くらいまではきています」
フロントのバルクヘッドを残したことで、エンジン搭載位置の後退は最小限のなかで達成された理想値に近い前後重量配分だが、サイドメンバーがある分だけGT3用に対して小型のタービンや専用エキゾーストの採用などでコンパクト化を図り、シワ寄せが行ったアンチロールバーはヘッドとインテークの上部を通る特徴的なレイアウトに。

これらも重なり開幕戦の出場見合わせというかたちでスケジュールに響くことにはなったが、実質デビュー戦の第2戦富士では、予選Q1のAグループを担当した富田竜一郎が鮮烈なパフォーマンスを披露し、いきなり1分36秒484のセッション4番手タイムを叩き出してみせた。
「あの時点では、まだ空力的な要素も未知数なので足回りをバチバチに硬めた状態で、ぶっつけ予選に行くしかありませんでした。そこで走行した結果として最高速も出て、そこそこのタイムを出すことができました。ですが、ストレートが速いとやはり(性能調整/スーパーGTでは参加条件)絞られてしまうので、その後はブーストを下げられて10数km/h分くらいはストレートスピードが遅くなりました(苦笑)」
直後のQ2からは産みの苦しみでもあるトラブル続きとなり、新生11号車としての初ポイント獲得は同じ富士での第4戦まで待つことになったが、ここでの経験が車両特性把握に一役買うことになり、以降は足回りのセットアップを含め、エアロダイナミクスの面での“レスドラッグ”の方向性を追求することになる。
「あの時点(第2戦)では結構、映像でもクルマが跳ねているところが映っていたと思うのですが、コーナリング自体は速くなかったのです。オフの間も全然、距離を重ねていないので、それ以降のレースで初めてセットアップの領域に少し進めました。でも、雨で延期になった鈴鹿を含めると今回(第8戦もてぎ)も土曜予選日は雨予報。4連続で雨に祟られるという状況です(苦笑)」

現在のレースウイークでは、土曜午前に行われる約1時間半の公式練習でふたりのドライバーを乗せつつ持ち込みセットアップの確認をし、同じくタイヤ比較をしてコンパウンドの見極めもこなす必要がある。そのアウトラップ・インラップだけでも相応の時間を要し、このタイムスケジュールのなかではテスト的な項目を立てて開発・熟成を図ることは難しい。
また、インシーズン中のタイヤテストでも「基本的にタイヤの開発チームを担当する場合は、良い悪いを含めてタイヤの数が優先です。セットアップというよりは最小限『これで比較できるよね』という状況まででクルマを止めて、タイヤを見る必要がある」ため、走行機会のなかで思われているほどクルマに専念できる状況でもないという。
「なので実際、今年はほとんどクルマの煮詰め作業というのはできていません。最初の頃は温度管理関係で時間を費やしましたが、根本的なところなので、そこをおざなりにすることはできません。さらに(第7戦)オートポリスに向け、足回りのレバー比、プログレッシブレートなどを少し触ろうかなと思ったら、また雨で……。やはり第2戦の印象がすごく良かっただけに、客観的に見たときに『このクルマのいいところはココです』というのが、現状はあまり出ていない状況ですね」と福田エンジニア。
「ただ、それでも見えたのは、もともとのZのボディ形状的にドラッグが少ないのかなと。なのでエンドスピードはすごく伸びる傾向です。ストレートで並んでバンバン追い抜けるかと言ったら、そういうわけでもないのですが、エンドは伸びるので飛び込みまではいけます。ブーストを絞られて遅くはなったのですが、その後は少しコーナリングスピードが上がり、結果またストレートが速くなったので、そこの(落ち)分は取り戻せているのかなと感じています」

