2025年のスーパーGT500クラスはどのような戦いになるのか。開幕前の岡山、富士での公式テストを前に、マレーシア・セパン、そして国内各地のサーキットでプライベートテスト、メーカーテストを重ねてきた3メーカーの各社の首脳陣に今季マシンの手応えについて聞いた。初回は昨年、36号車のau TOM’S GR Supraがぶっちぎりでタイトルを獲得したトヨタ/TOYOTA GAZOO Racing(TGR)陣営。車両開発を担当するTGR-Dの池谷悠氏に聞いた。
まずは大前提として、2025年のGT500車両は外観の空力の変更ができず、外観の開発は凍結されることになる。2026年から予定されている新しい車両開発に向けての措置でもあり、これまで開発可能だったデザインエリア(開発可能領域)のラテラルダクト(車両のドア下のサイドシル部)、フロントバンパーカナード部に当たるフリックボックスも開発が認められないシーズンとなる。
その状況のなかで繰り返されるメーカーテストでは、どのようなテーマ、そしてアップデートが行われているのだろう。
「今年は開発凍結の年になるので、空力などのホモロゲーションは昨年からそのまま引き継かれることになります。ですので(2025年車は)大きくクルマのコンセプトを変えていくというのは難しいところがあるので、どちらかというと規則で変わる部分、たとえば共通部品のブレーキの銘柄(パッドとローター)変更とか、スキットブロックも少し形が変わったり、そういったところにうまくアジャストをしていくというのを1月のセパンから取り組んできまして、そこからパフォーマンスにどうつなげていけるかなというところを探っているような状況ですね」
ブレーキ銘柄の変更は、広範囲での対応が必要になる。
「ドライバーさんからはブレーキのフィーリングが全然違うと聞きますし、少し利き方がピーキーな部分があると聞いています。ドライビング、クルマのセットアップ、そしてタイヤへの負荷の掛かり方も変わるので、どういう美味しい使い方があるかなというのを探っていかなきゃいけないというところです」
当然、大きな開発はできないなかでも、細かなアップデートは2025年も行われている。
「凍結されていない細かい部分でのレベルアップ、マイナーチェンジはちょっとずつやっていってはいます。外側の入り口が変えられないので、去年のように(ボンネット)中のレイアウト変更などは実際、できないですけどね」
昨年のGRスープラはフロント内部を大変更。ラジエターやインタークーラーといった冷却性能を見直して最適化して小型化するなどボンネット内の配置を変えて軽量化と低重心化を実現。これまでのアンダーステア傾向のマシン特性からフロントの回頭性を大きく向上させて課題を解決し、36号車au TOM’S GR Supraが文字通り、ぶっちぎりの強さでタイトルを獲得し、2連覇を達成した。
「個人的には2024年型で大きく変えて、大きく変えたがゆえに、細かい部分でもう少しこうできたなという部分はあるので、ホモロゲーションの登録が解除される次のステップの時にまた盛り込んでいくということになると思います」と池谷氏。今年は36号車(2025年は1号車)以外のチームの底上げというテーマがあるようだ。
「去年は結果的に陣営の中で36号車がぶっちぎったというような状況ではありますけれども、37号車(Deloitte TOM’S GR Supra)、39号車(DENSO KOBELCO SARD GR Supra)も優勝を挙げることができて、全体的な底上げにはつながっていっているとは思います。ですがやはり、陣営のなかでも36号車だけ抜けているところがあります。他のチームがどう追従できるのか、クルマ開発とはちょっと違うテーマを持ってやっていかなきゃいけないという風には捉えています」
その方針のもと、これまでのテストでの手応えはいかがなものなのだろう。
「1月のマレーシアに関しては、やはり大きい開発ができないのでタイヤの熟成、開発に重きを置いてやってきました。当然、そのなかで車両の開発の要素も盛り込んで、小さいことになりますけど、改良品を加えたりはしてきています。ただ、それでも、うーん……去年ほどの手応えはやっぱりないですね(苦笑)」
去年のGRスープラがビックチェンジで手応えが充分だったため、池谷氏にとっては今年のマシンの感触にはまだまだ懐疑的なようだ。
「難しいですけれども、それでも少なくとも着実なレベルアップというのは、できているのかなとは感じています」
今年のGT500クラスのもうひとつの特徴として、2020年から使用していたカーボンモノコックが今年から新調され、5年ぶりに全車新しいモノコックに入れ替わる。
「これまでも途中で剛性の変化などは製造メーカーさんに見てもらっているのですけど、一応、それなりに若干の劣化みたいなものが見られました。でも、モノコックが新しくなったからと言って、ドライバーさんによっては『シャキッとした感じがする』という人もいますが、それによってタイヤの選択が大きく変わるかとか、セットアップの方向性が全然変わるとかのインパクトは今のところ見られてないですね」
3連覇がかかる今季のトヨタ/TGR陣営。レギューレーションに大きな変化がなければ、今季も昨年のような圧勝劇となる可能性も考えられるが、池谷氏は改めて、兜の帯を締める。
「今季に関しては大きな開発ができない状況ですので、どちらかというと適したタイヤと、それにあったセットアップを探っていかないといけない。他メーカーと差別化するという意味では、そこを頑張らないといけないかなと思っているところではあります」
昨年、GRスープラでワン・ツーフィニッシュを達成した開幕戦の岡山国際サーキットで、今年はどのような走りを見せるのか。そのパフォーマンス次第で3連覇の可能性、そして今年の3メーカーの勢力図が占われることになる。