2025年のスーパーGT開幕へ向けて、GT500クラスに参戦しているトヨタ/ホンダ/ニッサンの3メーカーは、1~2月にかけて各地でプライベートテスト実施しながら2025年型マシンの開発を進めてきた。
今回は、プライベートテストを終えて公式テスト、そして開幕を迎えるホンダ/HRCのスーパーGTプロジェクトを率いる佐伯昌浩チーフエンジニア、そして車両開発担当の徃西友宏エンジニアに、2025年型ホンダ・シビック・タイプR-GTの開発状況や変更点を聞いた。
●エアロ凍結の2025年シーズン。テストはセットアップ熟成とタイヤに重点
まず、2025年シーズンを迎える前に今季のGT500マシンの開発の凍結エリアについて確認したい。今季のGT500マシンは空力面、つまり外装やエアロのアップデートが禁止されており、2024年型のデザインを継続して使用することになる。その影響から、冷却などに影響するボンネット内の各パーツの配置も基本的に変更することが難しい。
その一方、今年はマシンのベースシャシーとなるカーボンモノコックが全車新品に入れ替えられることになった。
この影響について佐伯エンジニアは「違いがあるというドライバーもいれば、何も変わらないっていうドライバーもいる。ですので、劇的に変わったという感じではない」と評す。
さらに、車体底面に位置するスキッドブロックについても規則変更により、新たなものが投入されることになった。
徃西エンジニアによると、「スピン状態での浮き上がりを防ぐために一部ラウンド形状を採用した共通部品が採用される」とのことで、すでに3社で事前にCFD検証を行っており、ダウンフォースの変動も微小なものであると判断されたうえで全15台が使用することになるとのことだ。
こうした、2025年へ向けた開発可能範囲が少ない状況のなかでホンダ/HRC陣営は、投入後2年目を迎えるシビック・タイプR-GTのテストにおいて、セットアップの熟成やタイヤ評価を中心としたプログラムをこなしてきた。
往西エンジニアは、「今年は基本的に触れるところが少ないというかほぼないので、調整可能な部分において、クルマの性能をしっかりと出し切る」ためのテストを進めているとし、さらに状況を説明する。
「昨年、一部の車両はうまくクルマの性能を出し切っていましたけど、そうならなかったチームもレースごとにありました。ですので、全体のレベルを底上げするために、各チームに(課題を)復習してもらって、また新しいトライもしてもらっています。あとはドライバーさんの好みに合わせていくところもですね」
「さらにタイヤは開発凍結がないので、テストすべきものをどんどん試しています。このクルマに合うものや、あとは他メーカーさんの(クルマが履いて)すごく性能を発揮するようなタイヤもあるので、うちもしっかりとその流れには乗っていかないといけない。こうしたタイヤ評価テストを行う時間がかなりの比率を占めています」
セットアップの最適化やタイヤ評価を徹底することで車両性能の底上げを図っているというホンダ/HRC陣営。しかし、ここまではほかの陣営も大方が共通した開発プログラムとなっているはず。一方、マシン戦力を出力の面で大きく左右するエンジンについて、開発の現状と取り組みを聞くと意外な言葉が返ってきた。
●エンジン開発は方針を再検討か。2連覇中au TOM’S GR Supraをどう止める?
2025年型エンジンの開発について、佐伯エンジニアは「話せる部分は少ない」と前置きしながらも「悩んでいます」と切り出して状況を語った。
「これまでは、CNF(カーボン・ニュートラル・フューエル)にピンポイントで合わせていくような開発を続けてきていて、去年の後半(アップデートを施した2基目)も大幅に変えていたのですが、あれが完璧な仕事をしたかというと……」と、2024年後半に投入したスペックのエンジンの満足度が高くなかった様子。今季はその結果を踏まえ、2025年型1基目の方向性について吟味している真っ最中であるという。
その理由については大まかに、「シーズンを終えてからの分解チェックで、エンジニアとして『これだとどうなのかな』という部分も見えてきたので。今年の開幕仕様はちょっとどうしようかなと」と語り、気になったポイントへの対処を含め、今後の方向性を熟慮しているようだ。
さらに佐伯エンジニアは、2025年型エンジンについての試行錯誤の一環として「今回のテスト(富士でのプライベートテスト)にもいろいろな種類のエンジンが載っているかもしれないし……(苦笑)」とほのめかす。開幕戦前のホモロゲーション(型式許可)まで、まだまだアップデートの余地が残されているとも言えるのかもしれない。
そして取材の最後には、このオフテストでも好調さを見せる、2023年(坪井翔/宮田莉朋組)、2024年(坪井翔/山下健太組)と2連続タイトルを獲得した1号車au TOM’S GR Supraの話に。
スーパーGT史上初の3連覇への挑戦権を持つ1号車を倒すことは、その他全チームの目標となるが、往西エンジニアは「去年の開幕戦(岡山)はあの差(ホンダのトップ車両とは12秒差)で優勝を獲られた。シーズンを通すなかでしっかり自分たちなりにも頑張って、『最終戦のゼロウエイトの時にはしっかり追い付いているように』と言って戦った最後の鈴鹿でもポールポジションを獲られた。やっぱり全然追いついてないですよね」と、2024年は全8戦中3勝という群を抜く強さを見せたau TOM’S陣営との差を語る。
取材を行った2月末の富士スピードウェイでのメーカーテスト、そして岡山、富士での2度の公式テストが開幕戦へ向けた開発の方向性の区切りとなるだろうというホンダ/HRC陣営。岡山国際サーキット、富士スピードウェイでの公式テストを経て、投入2年目に突入するホンダ・シビック・タイプR-GTはどんな姿を見せ、そしてタイトル争いに挑んでいくのだろうか。