■世の中の動向も見逃せない
レースを戦う上で、準備段階を含めて節目、節目の判断には技術的な知見も重要でありエンジンやシャシー、空力などについて専門家に近い知識が必要である。幸いなことに、元々エンジン・エンジニアが出発点だったので、シャシー・エンジニアがエンジンのことを理解するのとは逆で助かった。
そして別項で書いたように東海大学工学部動力機械工学科教授を兼務したことで、技術をより深く掘り下げる機会があり、あらゆる分野の理解を深めてくれた。
競争は一定の条件下で行なわれる。その条件に落とし込む技術規則や、スポーティング規則をいかに自陣に優位なものにするかも戦略上重要である。ただしそれには参戦する全社の合意が必要でわがままだけでは通用しない。取り巻く環境や技術トレンドを反映した中長期的な規則動向を踏まえて、論理的に説得しなければならない。
そのために、つねに世の中の動向や先進技術にも気を配り、英国や日本のauto sport誌など国内外の専門誌や、時事や政治、経済に関する書籍や新聞などもかなり読み込んできた。
そして勝利を重ね、スーパーGTにおけるGT-Rとニッサン系チームの重みは増してくると、総監督としてシリーズ全体への責任が増してきた。スーパーGTの将来像だけではなく、足元のファンを増やし理解を深めるために、ホームページや専門誌など媒体へのコラム執筆や、分かりやすいレース解説などの形で積極的にその役割を果たしてきたつもりでいる。
細かい個々の仕事に直接携わらない総監督としての仕事は、今まで述べてきたような人間としての考え方や幅、立ち位置に行きつくのかもしれない。それが5割の勝率を生む原動力になったと信じたい。総監督にまつわることを、いくつか述べたい。
つづく。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
2004~2015年スーパーGTニッサン系チーム総監督・柿元邦彦氏の著書「GT-R戦記」 12月1日発売です。※ニスモフェスティバルで先行発売。
