正面からとらえていた中継映像だけで、今回の接触を検証するのは限界がある。残念ながらKEIHIN REAL RACINGの金石勝智監督と塚越に話を聞くことは叶わなかったが、山本は本誌の取材に対して、あの瞬間の詳細を静かに語りはじめた。
「接触の2周くらい前から雨量が増してきて、無線で『レースを続けるのはやめたほうがいい』というくらい危険な状況になっていました。あの直前に僕はホームストレートでパッシングをしているんですが、それは(競技団のいる)コントロールタワーに対して危険を伝えるためのメッセージでした」
接触について尋ねると、山本は「僕の発言なので、どうしても僕寄りのものになりますし、塚越選手に聞けば、彼寄りのものになるでしょう」と前置きして続けた。
「正直、あのとき抜かれるとは思っていませんでした。接触の瞬間、僕はラバーの乗っていない(路面の目詰まりが少なく比較的水はけの良いコース中央寄りの)ラインで減速を開始して、そのあと1コーナーのR(旋回半径)を大きく取るためにアウトへ寄ろうとしました」
「ドライバーなら分かると思いますが、ウエット時におけるセオリーで走っていて、(17号車を)ブロックしたつもりはなかった。ホンダ同士の接触は避けるようにと常々言われているし、後ろが同じホンダだから信じてもいました」
「塚越選手の立場に立てば、僕に対して『後ろにクルマがいるのだから、不用意に(コース中央寄りからアウトへと)ラインを変えるべきではなかった』と言いたいと思います。ただ、最終コーナーを立ち上がったら水煙で後ろは何も見えない状況でしたし、それほどの雨量であることは彼も感じていたと思います。逆に僕の立場から言えばペース的には17号車が速かったので、ほかに抜くチャンスはいくらでもあったと思っています。その攻めどころの温度差が招いた接触でした」
レース後、「危険なドライブ行為」の裁定が下されたKEIHINにドライブスルーペナルティ相応の34秒が加算されたため、結果的にはARTAが勝利を収めた。しかし、ホンダ陣営全体で見れば、ほぼ手中に収めていた「開幕戦で表彰台独占」という千載一遇のチャンスを逸したことが痛恨だった。
また、大量得点の好機を逃したことに加え、今季に向けて戦闘力を上げてきたGT‐R勢に2位から4位を占められてしまったことが何よりも手痛い。
ホンダ陣営としてはRAYBRIGもKEIHINも、単に「“0点”だった」というより、むしろニッサン陣営に対して“マイナス”から今季を戦うことになった。
■ここから試される王者の底力
開幕戦を終えた時点で、いきなり窮地に追い込まれたホンダ陣営は、ここからどのように立て直してしてくるのだろうか? もしも、昨年までの山本雅史(前)モータースポーツ部長であれば両者に対して手厳しい言葉を浴びせながらも、それぞれのドライバーやチームの気持ちに寄り添いながら“この先”への軌道修正を行なっていただろう。
しかし、今季はF1マネージングディレクターとしての役割があるため、山本前部長に頼ることはできない。
「レースはホンダのDNA」を標榜するメーカーのトップとして、岡山を訪れていた八郷隆弘社長が何を思って東京・青山本社へ戻ったのかが気になるところでもある。
いずれにせよ、開幕戦を終えたところで、いきなり崖っぷちに立たされた前年王者RAYBRIG。山本は「スーパーGTはひとりで戦うレースではない。今季の開幕に向けて一緒に準備してきたJB(ジェンソン・バトン)やチーム、ホンダに対して申し訳ない気持ちしかない。『残念』という言葉では片付けられないレースだった」と開幕戦岡山を総括した。そして、最後にひと言を付け加えた。
「誰も得することのないレースになってしまった」
ホンダのエースの言葉が重い。

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YouTubeにあるスーパーGTの公式チャンネルでは、17号車の車載映像を見ることができる。水煙による視界の悪さ、山本と塚越のライン取りの違いなどがよく分かる。また、あの接触の瞬間も映像で確認することができる。意見は分かれるところだろうが、塚越が故意に当てたわけでないこともはっきりと分かる。