Isoshi Sumida

 しかし、このタイミングを1周でも見誤れば、勝利は手からこぼれ落ちてしまう。そう言えば、最後に勝ったのはもう2年も前だ。

 立川からは「もうあと何周かでドライ!」という無線が入る。その後、1〜2周で急激にタイヤのグリッブダウンが始まった。村田エンジニアは石浦を見る。「『まだ早くないですか〜?』って顔をしてた(笑)」。

 安全策としては、ウエットタイヤを付けて出て行き、途中でスリックに替える案もあるにはある。だが、ロスが大きい。何よりコース上の立川が、「もう乾いてるよ!」と叫んでいる。石浦が迷っている間に、スタッフからは「いま、セクター3!」の声。村田エンジニアがもう一度問いかける。

「行けるよね!?」

「……行きます!」

 腹をくくった石浦は、立ち上がってピットボックスの脇に立った。覚悟を決めて、ステアリングを握る。そのアウトラップ。「きつかったー。レインタイヤを履いているGT300のマシンに何度かぶつかりかけたりして、それが3周くらい続いた」

 GT500と言えど、ウエットパッチが残る路面のアウトラップでは、レインタイヤを履いたGT300のマシンのほうが速い。冷たい路面の上で、冷えたタイヤで格闘しながら、なんとかマシンを走らせていた。

 そのうち、クラフトスポーツ モチュールGT‐Rが背後に迫るが、「ここは勝負どころ」と抑え切る。やがて待望の発動がやってくると、59周目の1コーナーからコカ・コーラーコーナーにかけて、トップのモチュールGT‐Rを抜くことに成功。第3スティントの立川もアウトラップで順位を下げたが、99周目に石浦と同じようにトップに浮上し、最後までポジションを守り抜いた。

 勝因は「そりゃドライバーの力でしょう!」と村田エンジニア。立川のゴリゴリの序盤の走り、石浦の開き直りのアウトラップもそうだが、抜群のブレーキングを実現させたマシン、そしてベストの戦略を実現させたピットワークも完璧だった。今回のZENTセルモLC500の唯一のウイークポイントを挙げるとすれば、それはブリヂストンのウォームアップ性能だろう。

 2回目のピットストップの停止時間は、手元の計測ではセルモもニスモもほぼ同じ。だが、アウトラップ(ピット停止時間を含む)では4秒、さらにその翌周では2秒の差がついた。いまごろブリヂストンはこの課題に改めて取りかかっていることだろう。この地味な部分が浮かび上がるほど、ZENT LC500の仕事はパーフェクトだった。

スーパーGT第2戦富士決勝ZENT CERUMO LC500
トップ争いを繰り広げたZENT CERUMO LC500とMOTUL AUTECH GT-R

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