《GT300決勝あと読み》ドライか、ウエットか。ピットインタイミングと判断が勝敗を分けた大荒れオートポリスのGT300
その後、PACIFIC MIRAI AKARI NAC PORSCHEのコースオフによる3回目のセーフティカー明け、トップ争いは小暮卓史駆るマネパ ランボルギーニ GT3、アレックス・パロウ駆るMcLaren 720S GT3、そして新田守男のK-tunes RC F GT3の争いとなっていったが、終盤どんどん路面が乾いていく。ドライアップしていくなかでレインタイヤ勢はどんどん厳しくなっていくが、「スライドコントロールが抜群に上手い(岡澤優監督)」というパロウのMcLaren 720S GT3がトップに浮上。悲願の初優勝を遂げるかと思われた。
そんな最中、53周目からわずか5周ほどで9台を一気にかわしてきた吉本のSYNTIUM LMcorsa RC F GT3がパロウに近づくと、一気にオーバーテイクをみせトップに浮上。そのまま逃げ切り嬉しい優勝を遂げることになったのだ。
吉本は40周目にピットインしていたが、その段階でスリックを履いており、水量が多い中でしのぎ切ると、路面が乾くと同時に一気にペースを上げトップに立ったのだった。
「やっとですよ。本当に勝つまで長かったです。もうこのまま勝てる日がこないままなんじゃないかと思っていました」と吉本は、これまでのLM corsaの苦労を振り返りながら語った。まだ公認を得ていない状態からレクサスRC F GT3を育て続けた努力が報われたのだ。
「雨がかなり厳しくなってきたタイミングでしたが、温まっているスリックだったら、ある程度走れるんです。そしてレーダーを観ると、もう雨は来ない。セーフティカーも走っていて、残り35周、日射しも出ていて、映像ではコースから水が蒸発していたんです」
これを観て、吉本は「仮に10周しんどくても、ラインができたらいいかもしれない」とスリックへの判断を選んだ。飯田章監督は当初からスリックを主張していたというが、映像を観たこと、そして吉本と宮田はFIA-F4のコーチングのために、金曜日にFIA-F4で路面が乾いていく早さをみていたのが決断の決め手となった。また、宮田も全日本F3やスーパー耐久でオートポリスを今年走っていて、ウエットも走っていた。
ピットアウト後、3回目のセーフティカー中にふたたび雨が降るが、その時点で吉本は「もうダメだ」とは思ったという。ただそこでもう一度ピットインしては、判断が無駄になってしまう。ここでピットインしてウエットに換えたスリック組もいたが、「もう降ってこないと祈っていた。もう後には引けない」と吉本はコースにステイした。もちろん、ピットでは吉本がいつ戻ってもいいように準備はしていた。少しずつドライに転じていくと、吉本は「チャンスだ」とプッシュし、大幅に速いペースで一気にトップに立ったのだった。
ちなみに、濡れている状況下で走り続けていられたのは、ダンロップのスリックも大きかったのではないか……? と吉本にぶつけてみると、「あると思います」と応じた。
「リアライズ 日産自動車大学校 GT-Rもスリックでしたが、それに比べても速かったですから。それに、こういうコンディションは僕はけっこう好物なんです。なかなかスリリングではありましたけどね(笑)」と吉本。
「チョイ濡れのダンロップはすごくいいと思いますが、タイヤだけではなく、そのタイヤの種類が合っていたこともあります。今回は、何ひとつ欠けていても勝つことはできなかったと思います」
2015年にレクサスRC F GT3にスイッチしてから、LM corsaは苦労の連続だった。そしてそれを支え続けた吉本は、フィニッシュ後チームへの感謝を述べると同時に涙をみせた。チームスタッフは、それを振り返り「ズルいですよあのセリフは」と笑った。RC F GT3の勝利もライバルに先を越され、もがき続けたLM corsaと吉本大樹にとって、100戦記念の何よりのプレゼントとなっただろう。