更新日: 2019.09.12 06:42
ホンダがNSXをFR化する大決断。清水MS部長「社内で議論があったのは事実。ファンの皆様のためにも必要だと判断しました」
HSV(ホンダ・スポーツ・ヴェロシティ)-010は、もともとはアキュラブランドから市販車での販売を目前にして開発中止になったFRスーパースポーツ車をベースとしたGT500専用車両。HSV-010の参戦によって、2010年のGT500クラスは初めて3メーカーの駆動方式が揃うことになり、2014年からは現在の新型NSXを先取りする形でMRのNSX CONCEPT-GTが特認車両で参戦し、その後、NSX-GTとして今年まで特認での参戦を続けていた。
そのHSVでのFR車両の開発経験があるとはいえ、7年前の状況と現在では規則も技術も大きく異なる。FR車両のNSXの車体開発を担当するホンダの徃西友宏エンジニアがFR化NSXの開発の難しさを語る。
「いわゆるミッドシップエンジンのクルマからフロントエンジンに変えるという難しさというよりも、これだけ共通部品が多くて開発が絞られていると、できることは限られています。みなさん同じようなクルマになっていくなかで、どのようにクルマの特性を味付けして、性能を出していくのかという難しさがありますね」と徃西エンジニア。
MRとFRではエンジンを搭載するためのサブフレームなどが異なるため、現在とはまったく異なる新しいエンジンを開発しなければならず、その搭載方法も難しい。
「エンジン面での開発の自由度はスーパーGTはありますし、エンジンそのものというよりもFRに合わせた車体とのマッチングの部分はまだまだやりようはあると思っています。今まで後ろにエンジンを搭載していましたので、冷却面、エンジンの熱の処理などは我々は他車と全然違うことをしていたので、今のMRから前に持ってくることでは難しい面も多いです」
「空力的にもそうですし、まずはFRはエンジンルームが狭いですよね。空間が狭いなかにいろいろなものを押し込んで冷却の風の処理をしなければならない。後ろにエンジンを搭載していたときは、まずは必要なエアをどのようにエンジンまで導くかというのがひとつの壁になっていたわけですけど、そこをうまく制御できればエンジンルーム内はリヤは高さもあるので広い。フロントエンジンはボンネットの低い中にかなりのものが収まっているので、そこは初めてのところですね」と徃西エンジニアは開発の苦労の一部を話す。
「HSVでFRの経験があるとはいえ、当時のNAエンジンと現在のターボエンジンでは補機類も多いですし、HSVの時はフロントのサスペンションも自由に設計できる前提があったのでいろいろ工夫ができました。クラス1規定はモノコックもサブフレームもサスペンションもほぼ決まっているので、そのなかでうまく配置しなければならない難しさはあります。本当にゼロベースからの開発です」
実際、この発表会の翌日から行われる鈴鹿での合同テストは、GT-R、スープラは参加するもののNSXは欠席。今回の発表会で展示されたFR化したNSXもショーカーモデルで、実車はリヤのMR用のインテークダクトが塞がれるなど、リヤフェンダー周辺の形状が大きく異なってくるという。いずれにしても、2メーカーに比べてNSXの開発が遅れているの状況は明からだ。
「まだ開発の途上でして、明日のテスト走行には間に合いませんが、来年のシーズン開幕戦にはトヨタさん、ニッサンさんと完全に競争できる、いい状態のクルマを持ってくる決意です。これまでのNSX-GTの功績に恥じることのない、すばらしいパフォーマンスをお見せできるように開発を加速していきます」と清水部長。
2020年のNSXは次回の合同テストにはシェイクダウンされる方向で開発が進められているようだが、まずはFR化したNSXが無事に2020年の開幕戦に間に合うことを願いつつ、そして何より、7年ぶりの同一条件で戦うことを選択して決断したホンダの関係者たちの決断に敬意を表したい。