更新日: 2019.10.12 19:37
これが世界の潮流への最初のステップ。DTMホッケンハイムで苦しんだスーパーGT500車両とチームの背景《あと読み》
その考え方としては日本のウエット時のセットアップに近いが、それでも限界があった。
「クルマを動かせて荷重をゆったりタイヤに掛けてあげないといけない。それでも本当に冗談抜きで、日本の雨のとき以上じゃないですか。ドライでも日本の雨以上に路面にタイヤが引っ掛かってくれない」とトムスの小枝エンジニアは話す。
この状態ではハンコックタイヤを熟知しているDTM勢にかなうはずはない。ましてや、ドライの時以上に、ホッケンハイムでのウエット走行は日本勢に厳しかった。
「全然違う感じ。野球をやっているのになんでバレーボール持ってきてるんだって感じです(笑)」と、使っている足回りの違いに驚くのはTEAM KUNIMITSUの伊与木仁エンジニア。
「ウエットタイヤはそれくらい衝撃的なインパクトでした。はっきり言って、スーパーGTの延長ではいけないよ……ということですね。それはタイヤが一番大きな要素だと思いますけど、こんなクルマに(山本)尚貴が乗ったら、たぶん僕がシバかれると思います(笑)。フロントのレスポンスを考えたときに、今回やったようなセットアップは日本ではあり得ない。ウエットについてはある意味予想以上だった」と、素直に驚きを話した。
日本から持ってきたセットアップではウエットは対応しきれない。使っているモノ、スプリング、ダンパーを替えなければ対応できないというレベルの違いだった。
11月に行われるDTMとの交流戦は、路面のミューが高く富士で開催される。この経験を活かして日本勢もある程度の対策ができるため、ホッケンハイムよりは状況は良くなるはずだが、11月という気温の低さがどこまで影響するか。
それでも、今回のDTMのシリーズ戦に参戦して実際にチーム、そしてメーカー側が体感し、DTMと同じ土俵で四苦八苦する機会を得たことは、今後、グローバル化を進める日本のモータースポーツにとって避けられない部分であり、来年以降も続けていく継続性が重要になる。
DTM第9戦の翌週、DTMに参戦していたニッサンGT-RニスモGT500の松田次生が、F1日本GPの鈴鹿サーキットでF1マシン、そしてF1ドライバーのドライビングを見て話す。
「F1ではフロントの足は硬くして、リヤは車高を上げてレイクを付けてリヤの足は動かすようにしている。DTMでもグリッドで他の車両を見ましたけどアウディ、BMWは明らかに車高が高かった。F1もDTMも同じですよね。グリップの低いタイヤで内圧の管理を徹底して厳しくしている。世界的な潮流としてグリップの低いタイヤを足回りを動かして走らせていますよね」
「そして当然、ドライバーはその足回り、グリップの状態で速く走るドライビングをしないといけない。この鈴鹿でも、F1ドライバーは縁石を積極的に使っていたり、夏の10時間のときは縁石の外側を使ったラインで走行していた。山本尚貴選手のFP1の走りを見ても思いましたけど、やはり日本のドライバーはタイヤのグリップに頼った走り方になりますよね」
ヨコハマのワンメイクタイヤで行われているスーパーフォーミュラでは、内圧を高くして管理を徹底できれば、世界の潮流と同じ状況をすぐにでも作り出すことができるかもしれない。ハイプレッシャーにすることでタイヤの摩耗も厳しくなり、レース中のタイヤ交換の複雑な規制についても解決策が見えてくる可能性もある。
今後、スーパーGTだけでなくスーパーフォーミュラと合わせて、日本のモータースポーツが世界を目指すに当たってはクルマやタイヤ、そして、シリーズの運営方法の違いだけでなく、ドライバーにとっても世界の潮流に合わせたドライビングが求められる。参加したチームは予想以上に苦しむことになったが、今回のスーパーGT500車両のDTMのシリーズ参戦は、今後の日本のレースにとって掛け替えのない貴重なイベントになったのではないだろうか。