更新日: 2019.11.19 16:11
低重心化と空力追求した現行型ニッサンGT-R GT3。KONDO RACING平峰「コーナーの安定性は旧型から向上」/GT300マシンフォーカス
そうした車体側の進化に伴って、より性能比率が高まったのが空力の分野だ。GT3の最新潮流でも、ダウンフォースはもはや無視できないメインストリームとなっているが、この18specもトレンドに沿った進化を遂げている。
「15年型に比べると、まずダウンフォースは全体的に増えている。とくにフロント周りはスプリッターの設計も変わって、高速コーナーでの安定性がすごく上がっています」
「開発段階ではフロントがかなりシャープに入ってくれる分、リヤを振り回してしまう傾向にあったみたいですが、そこはニスモの開発担当のみなさんが仕上げてくれて、今はすごく安定しています」
「リヤのダウンフォースもしっかり感じられて、コーナーでの安定性は15年型GT-Rに比べてかなり向上しているんじゃないかと思いますよ」
それに加えて、歴代のGT-Rが耐久で強さを誇ってきた要因、「セットアップ変更に素直に反応する」個性も、この最新モデルにしっかりと受け継がれているという。
「乗ってて非常に楽しいし、ドライバーの思ったとおりに反応してくれる。コンディションによってアンダーステアやオーバーステアが出てしまっても、セットアップの変更を加えるとしっかり反応を示してくれる。その反応の良い悪いは別として、例えば車高などをいろいろと試すと、その影響がすごくわかりやすいんです」
空力性能の向上=車高変動に敏感になる、というイメージが一般的だが、このGT-Rでもその傾向は避けられない状況。それでいて、これまでのGT-Rは「足をしっかりと動かして、路面を捉える」という、ハコ車のセオリーに即した特徴を備えていた。
しかし平峰とKONDO RACINGは、こうした18specの特性をもとに他陣営とは異なる方向性にトライしている。
「GT-Rを使っている他チームが実際にどうセットアップしているかまでは分からないですけど、ダウンフォースではなくてメカニカル重視のセットアップをしているチームが多いかなという印象があります」
「対する僕たちはとにかくダウンフォース重視。レイク角もそうですし、車高についてもどこまで攻めていけるかという範囲や領域があるので、そこをうまく掴みたいと思ってやってきました」
開催各コースのスピード域も違えば特性も異なるものの、基本はダウンフォースを最大限に活かすポイントを追求しつつ「あとはタイヤのキャラクターによって足周りを合わせる」方向性でセットアップの進化を重ねてきた。
しかしこれも変更範囲の少ないGT3では諸刃の剣で、ダウンフォース重視で硬めのセットアップを採用すれば、それ以外の微調整にはタイヤ性能への依存度が高まることも意味している。
「そうなんですよね。タイヤへの負担という点では、GT-Rは(メルセデス)ベンツやランボルギーニ、ポルシェなどとに比べたら少し大きいのかなというのはあります。ただ、基本チーム自体がスーパーフォーミュラやGT500もやっているので、ダウンフォースが大事だというのは重要な部分で、ぼくたちの共通認識です」
「とくに新型になった18年型GT-Rではクルマの下面やフロントのスプリッターを筆頭に、いろいろな部分で空力性能がアップしてるので、そこをうまく利用していきたいという考え方ですね」
この確固たる方針により、チームはクラス参戦初年度ながら最終戦までタイトル争いの輪に加わるなど、つねに戦えるところを見せつける内容の濃いシーズンを過ごしてきた。
「(好調を支えている要因の)1番はシーズンのかなり早い段階(第2戦富士)でポールポジションを獲れたということ。それと2回目の富士も重たい状態でQ1トップが獲れましたし、Q2でも(サッシャ・フェネストラズが)いい仕事をしてくれた」
「スピードに関しては、他のチームより(テストでの走行)距離が少ない割にいい状態じゃないかなとは思います。もちろん、これに満足しているわけじゃないですけどね」
ちなみに平峰が所属するKONDO RACINGといえば、やはり近藤真彦監督の存在は外せない。
S耐参戦時代から近藤監督とともに戦ってきた平峰も「やはり近藤(真彦)監督に初めてお会いする前は、すごく緊張したんですよ。レース業界では普通に監督としてお仕事されてますが、サーキットの外に出たら簡単にお会いできる人じゃないですから」という。
「それなのに初めてお会いしたのは僕がトランポで着替えてる最中だったんです。奥でほぼ“すっぽんぽん”の状態で。外から『おつかれさまです、どうぞ』とか声が聞こえたので、そのときは『誰か来たんだな』くらいに思っていたので、まさか監督だとは……。ほぼ全裸で『初めまして、平峰です』って挨拶しました(笑)」
そんな近藤監督のもとで走るのは、「ドライバーだけの仕事に集中させてもらえるので、とてもやりやすい」とも語る。
「ドライバーのメンタルや気持ちの部分を理解されていて、もちろん監督自身もレースを走られていた方なので、その点では本当に優しいです。もちろん甘やかすという意味じゃなくて、ドライバーの立場を考えた優しさがあります。一方で、集中するときは本当にみんなをその空気にさせてくれますし、やはり勝ち方を知っている方だと」
2018年にはスーパーフォーミュラでチームチャンピオンに輝き、2019年はニュルブルクリンク24時間レースへの参戦も開始するなど、確実にチームとしての戦闘力は高まっている。
また2019年のシリーズ戦最終戦が行われるツインリンクもてぎは、平峰が2018年に自身初のポールポジションを記録したトラックであり、その流れを踏まえた今季の戦いぶりに手応えを感じているという。
何より、大排気量自然吸気エンジンを積み、長いストレート後半での伸びを武器としたランボルギーニ・ウラカンGT3とは異なり、最高速への到達時間が異次元の速さを誇るツインターボ、VR38DETT搭載のGT-Rで戦うもてぎだけに、ストップ・アンド・ゴーでの勝機は高いはずだ。