GT500フル参戦2年目、チームルマン移籍初年度のシリーズ戦を戦い終えた山下を、寿一監督も「スーパー山下。凄いと思います」と評す。
「ポテンシャルのあるマシンを彼に与えれば、なんとかしてくれる。そういうドライバーです」。そう思えるシーンは本当に多かった。前日の予選Q2、最後に2位をゲットしたアタックもそうだ。
また、オーバーテイクや予選アタックという派手なシーン以外にも、厳しいハンデ条件で臨んだ第5戦富士で見せたような巧みさも光った。スリップストリームをうまく使うことで燃料リストリクター調整による辛さを補い、ライバル車についていく。そういうところでも山下のドライバーとしての力量充実ぶりは光っていた。
そしてチーム全体としての戦い方が、次第に『山下の速さを活かす』という方向に向いていったことも感じられたシーズン動向のなか、そこで重要な役割を果たしたのが大嶋である。
ベテラン大嶋が、若いチームメイトに対し変な意地の張り方をしていたら、1台のマシンを2人交代で走らせる“コンビ戦”のスーパーGTではチーム全体が機能しなくなる。
「僕がかつてドライバーとしてアンドレ・ロッテラーに感じたようなことを大嶋も(山下に対し)感じながら、いいクルマをつくって若手のスピードを伸ばす、そういう方向にきっちり気持ちを切りかえて、自分(の想い)を整理して、チームのために頑張ってくれたと思います。フォア・ザ・チームでよくやってくれました。違う戦い方をみつけた大嶋、今後も楽しみです」(寿一監督)
旬な速さをもつ若手にスピード勝負の部分は任せ、レースを大局的にとらえて戦っていく。これはかつて、各メーカーのエースと呼ばれたドライバーたちが現役後半期にたどり着いた“強い戦い方”の境地である。道上龍が小暮卓史と、本山哲がブノワ・トレルイエと組み、そうしていった(と思える)。

そして当時ドライバーとしてシリーズを戦っていた寿一にとっては、2006~10年にトムスで組み、06~09年の4シーズンで2度のドライバーズチャンピオンと3度のチーム部門王座を獲得したパートナー、ロッテラーがそういう存在だった。
つまり、2019年の山下はあの頃のロッテラーにも匹敵しようかというほどに速く、2019年の大嶋はあの頃の寿一のように成熟した総合力を備えるドライバーにそれぞれ進化した、ということなのであろう。
監督となって4年目の寿一、彼は今季途中「僕にとって目標とするチーム像のひとつは、自分とアンドレがいた頃のトムス」と語っていた。それが実現した、ともいっていいのではないだろうか。
速い若手を切り込み隊長にして戦うことは、ベテランなら誰でもできる芸当ではない。たとえば予選で若手にQ2でポールを狙わせるとして、自分がQ1を通れないようでは話にならない。若手のスピードを活かせるようなマシンづくりをしながら、自分も相当に速くあり続けなければならないのだから、簡単な話ではない。
最終戦もてぎの予選が象徴的だったように思える。まず大嶋がQ1を7位で突破。最終順位こそ7位だが、危なげのない突破だった。このとき、大嶋は2周連続アタックするかたちで、後ろの周が自己ベストとなっていたが、タイヤのウォームアップ傾向を考慮し、後ろの周一本にアタックを絞っていった方がいい、というフィードバックをする。
寿一監督、両ドライバー、そして今季スーパーフォーミュラを含めて大嶋と新たな盟友関係を築いている阿部和也エンジニアらはQ2での“一本絞り”の方針を採択。

そして山下が実際に見事なアタックを決め、ライバルKeePerの前のグリッドを確保する2位奪取を果たしたのだ。あの瞬間のコマンドポストでの大嶋と寿一監督の喜びは、まさしく“みんなで獲った”実感あってこそのものだった。
「僕が考えるプロの仕事とは、人を思い、人のために動くことです。そしてそれは、まわりまわって自分にかえってくる。スーパーGTはそういうレースです。スピードも大切だけど、それだけ(の勝負)じゃない」。寿一監督の言葉は、人生訓のような響きさえまとう。