山本にとっては、スーパーGTのカテゴリーを越えて、日本GPの鈴鹿のFP1でF1マシンをドライブする機会を得られたことにも、バトンの影響が大きかった。

「F1に乗れたというのも、彼と一緒にチャンピオンを獲れなかったらスーパーライセンスは取れなかっただろうし、彼と組めたことで、僕の名前が彼を通じてF1の世界の人たちにも早く知れ渡ることができた」

「F1のパドックに行ったときに、僕はF1では無名なはずなんですけど『ジェンソンと組んでいる山本だよね』と言ってくる人が本当に多くいるのを、ヨーロッパに行くたびに感じていました。そのとき、そのときには分からなかったけれども、結果的にはこれまでの出来事や縁がすべてつながっているように感じます。F1に乗れたのもジェンソンと組めたからですし、F1マシンにあれだけ早く順応できたのも、ジェンソンがそれまでF1の世界で築き上げてくれた彼のパーソナリティがあるから。F1のパドックの人たちもすぐに僕のことを受け入れてくれた。なにかこう、いろいろつながっているなというのを感じる2年間でしたね」

 バトンとコンビを組む2年前、山本はここまでバトンの存在が自分のメンタリティに影響を及ぼすとは、想像すらしていなかった。

「もちろん、組む前も素晴らしい選手なんだろうなと思っていましたけど、実際に組んだ人じゃないと彼のすごさはわからないと思います。彼には彼にしかわからないプレッシャーと環境というのがあるので、それを間近で感じながら彼のタフな姿を見ることができました。僕はみんなが思っている以上の彼のすごさを隣で感じることができた、日本人で唯一のドライバーだと思います」

 バトンからは別の一面からの影響も受けた。人気者であり、実力もあり、そして人格者として評判のバトンからは、強さや誠実さだけでなく、ドライバーとしてのエゴや弱さをも共有することで、山本はドライバーとしてまたひとつ、大きなステップを踏むことになったのかもしれない。

「もちろん、外には出ていない彼の黒い部分もあるんですけど(苦笑)、それはレーサーとしてはあたり前の部分でもありますし、逆に彼も普通のレーサーと同じように感じている部分があることがわかって、僕もそれでいいんだと理解できた部分がある。彼からは、みんなが見ているもの以上のものを感じることができたし、学ばさせてもらいました。自分の一生の財産になりましたね」と山本。

 スーパーGTだけでなく、スーパーフォーミュラを含めて、この2年間の山本は名実ともに国内トップドライバーとなっただけでなく、国内モータースポーツのあり方や提言など、ファンへの責任を感じる言動が多くなった。この背景にもかつてGPDA、F1ドライバー協会などに積極的に関わったバトンの影響があるのかもしれない。

「今は何もないと思っている縁も、将来的にどこかでつながる可能性があるし、本当に一瞬一瞬、無駄なモノはないないということを改めて気づかせてくれた2年間でした。もちろん、彼にはなれないけど、彼みたいなドライバーになりたいなと近くにいて思いました。これはやっぱり、一緒に組む前と組んだ後では全然、感じていたことは違っていたと思います」

 そのバトンも、来年はいない。来シーズン、マシンを一新して巻き返しを計るホンダ陣営のなかで、山本尚貴は新しいコンビとともにどんな新しい姿でスーパーGTに臨むのか。これまでは節目節目で涙を見せることが多かった山本だったが、スーパーGT最終戦のもてぎでは、その目はしっかりと前を向いていた。

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ホンダサンクスデイで2年パートナーを組んだ山本尚貴と固い握手を交わすジェンソン・バトン

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