もともと電機メーカーでエンジニアを務めていた私は、各自動車メーカーがレースで繰り広げる技術競争が大好きです。ですから、技術部門主体でレースに取り組む日本メーカーの体制にも異論はありません。ただし、技術部門だけが独走すると、セールスやマーケティングが彼らに反旗を翻し、モータースポーツ活動が続けにくくなる恐れが出てきます。
その結果、レースに挑む参戦体制が縮小されてしまったり、最悪の場合は参戦を取り止める事態にもなりかねません。私が心配するのは、そうした状況です。
このような提案をすると、自動車メーカーのレース部門に所属する方々からは「セールスやマーケティングをレース活動に引き込むのは容易ではない」という答えが返ってきます。
日本ではかつて、レースを販促活動に役立てようと努力しながら、思いどおりの効果が得られなかったケースがたくさんありました。そうした苦い経験から、セールスやマーケティングの賛同を得るのは難しいと考えられているようです。
ただし、そうしたケースでは技術部門がどの程度までセールス/マーケティング部門に歩み寄っていたかが疑問です。「レースを戦う上では不利かもしれないが、セールス/マーケティング部門にとってメリットがあるならそれに挑戦してみよう」
そんな気概がなければ、セールス/マーケティング部門を味方につけるのは難しいように思います。
自動車メーカーが広告にモータースポーツをたくさん活用し、セールスの現場でもモータースポーツを用いたキャンペーンを実施する。そんな環境が整えば、自動車メーカーがモータースポーツに取り組む価値や意義が高まり、その活動に対する向かい風も弱まるでしょう。
私たちモータースポーツファンにとっても、広告やディーラーを通じてモータースポーツと触れる機会がもっと増えれば、これほどうれしいことはありません。
そうした状況を生み出すためにも、技術部門とセールス/マーケティング部門が互いに理解し、積極的に協力し合う体制が必要不可欠だと私は信じています。


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次回は、自動車メーカーによるレース活動が電気自動車時代を前にして抱えるジレンマがテーマ。自動車社会が100年に一度の変革期を迎えていると言われる今、モータースポーツも変わるべき時が来ているのかもしれません。
【Profile】大谷達也 Tatsuya Otani/自動車ジャーナリスト
エンジニア職を経験後、自動車雑誌編集部で新車情報やモータースポーツに関する記事を編集・執筆。2010年からフリーランスとなり、ハイパフォーマンスカーの試乗記事の執筆を中心に、自身の経歴を活かした環境技術や最新モデルの新技術の解説にも定評がある。モータースポーツ記者会会員。