そもそも現行JAF-GT300規定の武器は、少ないパワーと引き換えに軽量な車重を利したコーナリング性能で勝負すること、総排気量やリストリクター径の違うFIA-GT3車両に対して、最高出力と引き換えに燃料消費量を抑え、レース戦略で幅を持たせられることにあった。
2リッター水平対向4気筒ターボながら、軽さを武器にポールポジションを獲りにいくSUBARU BRZ R&D SPORTや、重量配分や車重からくるタイヤ攻撃性の低さなどで、ピット戦略でタイヤ無交換など“奇襲攻撃”を仕掛けるJAF-GT300マザーシャシーなどがその好例と言える。
しかし、現状の31号車TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GTは、まだその領域で戦うことを封じられた状況でもある。
外から見える数字だけでも、開幕時から通年の最低重量は1250kgと、SUBARU BRZの1150kgやマザーシャシー勢の1100kgに遠くおよばず、GT3車両との比較でもアウディR8 LMS Evoやポルシェ911 GT3 Rの1225kgより重く、ホンダNSX GT3 Evoの1260kgに迫る数値に。
そして31号車には、さらにハイブリッド重量として+51kgが加わっている。これにより、BoP重量を加えた1300kg台のGT3勢と肩を並べる車両重量で戦うことを強いられた。
また、エンジンでも同じ形式由来のユニットを搭載するレクサスRC F GT3との比較では、特認車両扱いの開幕戦時で、プリウスのリストリクター径が34.5mm×2なのに対し、RC Fは同38.0mm×2。
第6戦オートポリス以降での比較でも、プリウスの30.56mm×2(車重1301kg)に対し、RC Fは同38.0mm×2(1315kg)と、JAF-GTとしての武器を持つことは許されない環境で勝負を続けていたのだ。
「車重は重いし、コーナーは速くないし、パワーは絞られてしまっている。今はコーナーを速くしようと頑張っていますけど、限界値はあります。これが空力面でもね、RC Fの方が良かったりするんです。彼ら“ウイングカー”ですからね。グランドエフェクトを使えて、ディフューザーもほぼ車体中央、前から引っ張ってきている。我々はフラットボトムですし、そういう差もあったりとか。意外とレギュレーションを読み解いていくと、勝てる要素が一切ない」と、さすがに嵯峨も苦笑いするしかない現状なのだ。
それだけに、ハイブリッド機構の使用方法も「エンジンが落ち着いてくれないことには追い込めない(金曽監督)」と、もうひとつの飛び道具も満足に機能させられない状態での戦いを強いられた。
前段でも触れたとおり、初のFRながら車体自体の設計は規定で50mm延長が可能となったホイールベースなどにも対応し、ひとつひとつのディテールで精巧に設計、組み立てが行われハイクオリティな仕上がりを見せている。
リヤセクションも強固なサブフレームにバルクヘッド直付けのダンパーユニットなど剛性面やダイナミクス面でも大きな進化が達成され、これまでのミッドシッププリウスのようにトランスミッションがリヤに張り出し、その後方にモーター機構が装着されていた“超リヤヘビー”のような独特のクセもなく、素直な操縦特性に仕上がっているという。
「壊れない、という美点もあります。一個一個、使っているパーツの質が高いのは知っていますし、開発段階から全部見てきているので、どれだけいいものを使ってるかは理解している」と嵯峨。
「正直、今のパッケージでは結果が出ないのはしょうがない部分がありますけど、さすがに7戦連続(取材は最終戦もてぎレース前に実施)やると、若干モチベーションが……(笑)」と、シリーズ一番の盛り上げ役も、苦しい胸の内を明かす。
しかし、全日本F3の名伯楽で、今季限りでその活動に幕を降ろした坪松唯夫率いるルボーセ・モータースポーツでの日々を引き合いに、このままでは終われない決意も示した。
「僕個人としては、F3で優勝するまでに6年掛かった男なので(笑)、そんな簡単にはヘコたれないぞという思いはあります。時間を掛けてゆっくり勝てるところまで仕上げていかないとなというのが僕の使命だとも思います」
「その点で、同じドライバーの中山(友貴)選手にはちょっと申し訳ないというか、悪いタイミングでチームに来てもらっちゃったなという思いはあります。でも今は一緒に、切磋琢磨しながら開発に取り組んでいますし、今や“ファミリー”という感覚もあります。大変ですが、時間がかかっても必ず(優勝戦線に)戻りたいですね」



