空力の鬼才と呼ばれるエイドリアン・ニューウェイは自身の著書『HOW TO BUILD A CAR』の中で、シャシー・デザイナーが目指すものを定義している。
1:ブレーキング、コーナリング、加速のフェーズを通じて、タイヤが路面に均等にできるだけ安定して接地しているようにすること
2:車体をできるだけ軽くすること
3:車体が発生するドラッグをできるだけ小さくすること
4:コーナーの各フェーズを通じて、できるだけ大きなダウンフォースをバランス良く発生させること
ニューウェイはこれらをダウンフォースに必要な項目として記しているが、以上の4項目は森脇氏が定義した速いクルマの条件にも含まれている。さらに、ニューウェイは空力を利用してグリップを得られるダウンフォースを「いくら食べてもなくならないケーキ」だと説明している。
しかし、想像してほしい。そのケーキも元の材料が良くなければおいしさを感じることもなく、食べる量も減ってしまうだろう。
つまり、空力がパフォーマンスに与える影響が大きいのは事実としても、その生み出されたダウンフォースを最大限に活用するためには、マシン本来の「メカニカルグリップ」が良くなければすべてが台無しになってしまうということだ。
それゆえに「メカニカルグリップ」は重要な技術領域であり、速いマシンの絶対条件となる。
サスペンションのことを深く理解することは難しくとも、用語や基本となる仕組みが分かれば、レーシングカーを見るときの視点が変わる。新型コロナウイルスの影響で外出が自粛され、レースの開幕が延期されているいま、少しマニアックな世界の知識を増やすチャンスではないだろうか。
オートスポーツwebチャンネルではこれまでの森脇氏による講義をまとめて見ることができる。