路面はライン上だけ乾いているという難しいコンディション。前車を抜こうとインに入ればそこは濡れた路面であり、ブレーキングでオーバーテイクするのは相当難しい。

 3台の間隔はジワジワと詰まっていき、やがて最終コーナーで寿一がGT300のマシンに引っかかる。「アウトから抜くか、インから抜くか」、わずかな迷いが生じる。背後の道上はそれを逃さず、GT300のインを選択した寿一のさらにインにマシンを向ける。

 この2台の攻防を後ろで見ていた大輔は、あらかじめアクセルを戻し、前2台よりも手前から全開加速状態に持っていく。できれば寿一のアウトに並びたかったが、それはタイミングが合いそうもないため道上のインを選択し、ノーズをねじ込んだ。こうして最終コーナーの立ち上がりで3台の横並びが完成することになった。

 寿一は乾いた路面を道上に踏ませないように、わざと正規のラインよりも内側にポジショニング。寿一よりもスピードが乗っている道上だったが、2台は軽く接触してしまい加速が鈍る。大輔はアウト側の2台よりもスピードが乗っていたものの、道幅が足りなくなってしまい、芝生の上をバウンドしながらフラットアウト。

「えらいとこ走ってもうた!」とハイテンションになった大輔は、6速にシフトアップするのを忘れてしまう。その左で、道上は「右にも左にも行けないっていうのは、もう縛られてるみたい(笑)」と考えながらとにかく全開。その左の寿一の無線に、関谷正徳監督の声が届く。

「ブレーキじゃ負けないから! 絶対負けない!」

 もちろん寿一は百も承知。そのために道上にラインを踏ませないようにしてきたのだから。ブレーキングに入る直前まで道上をけん制し、自身はドライ路面でしっかり制動を開始する。

 前の周に失敗した大輔は、イン側の路面がスリッピーであることを知っているから早めにブレーキを踏み、次いで道上が踏み、最後に寿一が踏んだ。

 伝説のスリーワイドのシーンは、寿一がトップで1コーナーに入ったことで幕切れとなった。3台がGT300を交わしてから1コーナーに入るまでの時間は、わずか20秒程度にすぎない。だが、この場面のインパクトはあまりにも大きく、GTファンの心をわしづかみにしたのであった。

2007年のスーパーGT第5戦SUGOを制したARTA NSX
2007年のスーパーGT第5戦SUGOを制したARTA NSX

 ちなみにこのレースで優勝したのは、ARTA NSXである。2位はTAKATA NSXで、スリーワイドのバトルを制した宝山SC430は5位だった。あなたの記憶と違う? それは、それだけこの瞬間のインパクトが強烈だったからだろう。

本日のレースクイーン

池永百合いけながゆり
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