ミシュランは2020年シーズンから2台のGT300車両へのタイヤ供給を開始した。2014シーズン以来の復帰となるが、今回のGT300への供給は、以前の取り組みとも、現在のGT500での取り組みとも、まったく異なる「コンセプト」に基づいて行なわれている。
すなわち、今季のミシュランのGT300向けタイヤは「スーパーGTに特化したタイヤ」ではない。世界じゅうのGT3・GTEマシンのレース向けに開発しているスペックのなかから、使用タイヤをチョイスする仕組みをとっている。
果たして、タイヤコンペティションの激しいスーパーGTにおいて、そのスタンスは通用するのだろうか?
小田島氏は今回のコンセプトについて「このシリーズを継続させるため」と説明する。
「マニュファクチャラーが専用車を開発し、それを各チームがオペレーションするGT500と比べ、GT300の場合はチームが自分たちの意思で購入あるいは製作して選手権に臨んでいるわけで、俗に言うワークス活動とは違うステージでの戦いです」
「『コンペティションだから、開発コストは度外視で勝てばいい』という考えとは少し異なる土壌がGT300にはあると思いますので、コストとパフォーマンスのバランスをうまくとれないのか、というトライをしているところです」
GT500については完全なるコンペティションの場と捉えるが、GT300については「それだけではない」という考え方である。
「GT500のように毎レース異なったスペックのタイヤを投入するとなると、当然チームさんもそれに準じたテストをしなくてはならない。それだけでなく、テストやレース結果の分析・開発能力という面でも、チームさんの負担はすごく大きくなります」
「したがって、そこをある程度線引きした形でGT300の競争が成立しないのか、ということを我々は考えています。そうしないと、このシリーズが継続できなくなる可能性がある。コンペティションをしながらいかに継続性を保つか。それがGT300に関しては重要ではないかと考えています」
グローバルなタイヤラインアップからの選択になるとはいえ、「世界じゅうにはいろいろなスペックがあり、『1年間、この2スペックだけでレースしてください』という話ではありません」と小田島氏。コース特性や開催時期の気候に合わせたタイヤを持ち込むことは可能、というわけだ。

また小田島氏は、このコンセプトでのGT300へのタイヤ供給は「じつは2021年からを予定していました」と明かした。
「幸いなことに、過去数年の間にいくつかのGT300チームさんから『まだか、まだか』とお声がけがありました。ただ、GT3/GTE用のタイヤも日々進歩しているなかで、そのなかにGT300も入れて開発プラットフォームを構成し、そのうえでグローバルに供給の網をかけていく……という準備もあり、2021年からというのがひとつのプログラムとして進んでいたのです」
「しかしながら非常に強いご用命の声を頂いたのと、社内でも2020年から供給できるというコンセンサスが得られたので、早めにお声がけをいただいており、また我々のコンセプトをご理解いただいた2台で、今季からスタートすることになりました」
GT500よりもオフシーズンのテストの機会が少ないGT300クラスにあっては、新型コロナウイルスの影響はより大きかったと言える。開幕までに充分な走り込みができなかったことでチームがタイヤを理解する時間が充分にとれなかったため、「まだまだ伸びしろはあると考えています」と小田島氏は言う。
とはいえ、開幕戦では9号車アストンマーティンが早くも入賞を果たしている。「専用開発でない」点をネガティブに捉えるのは簡単だが、「継続性(サスティナビリティ)を第一に考えたグローバルなアプローチ」は、案外軽視できない結果を生み出すかもしれない。
