3メーカーが理想の開発を実現した2基目エンジン。鈴鹿で見えた進化とラスト2戦への展望
今回の週末はすでに第3戦鈴鹿から、トラブル対策で先行して2基目を搭載していたニッサン陣営のエースカー、MOTUL AUTECH GT-Rが予選Q1でクラッシュを喫し、最後尾スタートを強いられた。
性能調整のハンデウエイト換算で50kg以上の領域で課される燃料流量ランクダウンの措置を受けないMOTUL AUTECH GT-Rだったが、いかに優勝候補と言えどさすがに最後尾からでは好成績は期待できないもの……と考えられた。しかし結果はセーフティカーの好機も活かしたシリーズ史上最大の大逆転劇。
その背景には、今季コスワースからボッシュ製に変更されたエンジンの新ECUへの適合に苦しんだ序盤戦から、明らかな改善があったことも奏功した。
「基本的にはECU自体のロジックがピッタリと昔と同じような動かし方ができるわけではない。ただ使い方の検討をずっとしてるなかで少しづつ改善されている。とくに前半の富士1戦目、2戦目あたりの全然合わなかったときに比べれば、相当まともに走れるようになったと思います」と決勝前に語っていた松村総監督。
一方で、KEIHIN NSX-GTが3ランク、RAYBRIG NSX-GTが2ランクと全5台中2台が燃料流量ダウンとなっていたホンダ陣営は、テスト機会がないことで当初想定していた”ビッグ・アップデート”を見送り、「大きくスペックを変えたくてもいきなりレース投入ということになるので、2基目の入れ方というのはあまり大きくは変えられなかった、というのが今回のスペック」(佐伯LPL)と、2021年以降も見据えて性能的に明らかに余力のある”タマ”の存在も匂わせる。
また、トヨタで2014年度のNRE立ち上げを指揮した佐々木エンジニアも、ブリヂストンタイヤを装着する5台が燃料流量リストリクター適用で本来の性能が表に出にくい状況だったことに触れ、「ピークを上げつつ、ドライバビリティの部分は現状の適合を見てベンチで合わせて持ってきて走行するわけですが、特におかしな部分はなかった。ドライバーからのコンプレインも今回はなかったですね」と語り、今後の展望にも自信をにじませる。
「時期的に気温が下がることに関して、(出力的には)プラスの方向ですが、いまは燃料リストリクターが効いてますので、ドライバーさんには厳しい。なので今回は『お、速いね』というコメントはなかなか難しいんですけど、でも全体を見ると、燃リスのないクルマとも正直しっかり戦えてましたよね。今日見ている限りだと(ハンデが半減される)次のもてぎでは、エンジンのパフォーマンス側でしっかりと『いいね!』がもらえるとは思っていますし、我々がベンチで見た定量的な数値なりのコメントがいただけるかな、という気はしています」と佐々木エンジニア。
11月という異例の時期に争われるラスト2戦は、気温の低下でターボのブースト圧を一時的に上げるような運用も考えられ、予選ではさらに“パワーベスト”の戦い方も想定される。
チャンピオンを獲得した2018年のような“Q2モード”も期待されるホンダの佐伯LPLは「気温はプラスにも捉えていますが、エンジン的にはどんどん負荷が上がっていきますので、使い方は気をつけていかないと……とは考えてます」と語るも、前述のように今後もまだまだ出力の向上シロを見込んでいる。
ダウンフォース至上のニッサンGT-Rや、FR化で理想の運動性能を追求したNSX-GT、そしてドラッグ低減に見合うセットアップを狙ったトヨタGRスープラと、各マシンの車両特性も絡みつつ、ここからハンデウエイトが降ろされ、燃料流量がそろい、各メーカーが横一線で並んだときこそ、エンジン本来の“進化と真価”が試される。