更新日: 2020.11.05 10:39
アプローチは正反対? GT300タイトル争いの鍵を握る『ブリヂストンvsダンロップ』タイヤ開発最前線
一方、2018年はLEON CVSTOS AMGで、そして2019年はARTA NSX GT3でGT300クラスのタイトルを獲得しているブリヂストン。今季は開幕戦で埼玉トヨペットGB GR Supra GTがデビューウインを遂げただけでなく、第4戦もてぎで優勝を飾ったLEON PYRAMID AMGがここまで全戦でポイントを重ねており、オールラウンドでの安定した強さを発揮している。
第6戦でのLEON PYRAMID AMGは苦手な鈴鹿と100kgのウエイトハンデによって予選では下位に沈んだが、SCの恩恵も受けた決勝では10位でフィニッシュし、ポイントを獲得。しかもフロント2輪交換を成立させていた。
その決勝前、今季のGT300向けタイヤの開発について話を聞いたブリヂストンの山本貴彦MSタイヤ開発部マネージャーは、意外なことを口にした。
「タイヤ開発における進化ですか? いや、そんなにはないですね」というのだ。
「ウチはもともと1台とか2台で(GT300への供給を)スタートしましたから、そこからGT3車両の経験などが増えていくなかで、(状況に合ったタイヤを)選択する精度は上がっているかもしれません。ただ、その“選択肢”の底上げがすごくされているかというと……正直、そこはあまりないです(笑)」
にも関わらず、今季を含め近年のGT300で強さを見せているのは、GT500での長年の経験があるからに他ならない。この先も、GT300向けのタイヤに大きなアップデートの予定はないという。
「たとえば6号車さん(ADVICS muta MC86)がピックアップに苦しんでいたりというような明らかな課題に対して『どうしよう』というのはありますが、『大幅に開発をしていこう』というのはいまのところあまり考えていません」
「基本的には、GT500で開発した技術を適材適所で下ろす、というイメージです。GT300にはそれほどリソースを割けませんので、どこか一部にすごく突っ込んで開発をするというよりは、チームさんのニーズにできるだけ応える形で、GT500の技術も含めてリーン(効率的)に対応していくという形です」
世界的にも類を見ないほど激しいGT500クラスのタイヤ開発競争。そこで得られたノウハウが、いかに“強い”かが伺える話である。地道な開発を昨年〜今年で実らせ追いついてきたダンロップとは、バックグラウンドがそもそも違うのだ。
残りのツインリンクもてぎ、富士スピードウェイは、ともにLEON PYRAMID AMGが得意とするコースであり、これまでの戦いから考えても無交換や二輪交換は充分に可能……というよりは、もはやデフォルトの戦略ですらあるかもしれない。さらに現状の10ポイントのマージンも含めて考えれば、LEON PYRAMID AMGがタイトル候補最右翼なのは間違いない。
だが、第6戦鈴鹿がそうだったように、予選までの優勝候補が決勝で一転……という可能性もなくはない。もちろん対抗馬はダンロップだけでなく、ランキング4位につけるヨコハマユーザーのリアライズ 日産自動車大学校 GT-R(藤波清斗/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ組)にもチャンスはある。
また、ブリヂストンを履くARTA NSX GT3の高木真一(※第6戦鈴鹿決勝直後に取材。その後、スーパー耐久での怪我により残り2戦の欠場が決定)によれば「次からは寒いので、タイヤ(のスペック)がガラっと変わる。鈴鹿は荷重がかかるので意外といつものタイヤで行けたんですが、寒いもてぎはまったく違うレンジのタイヤを用意することになるので、そこがどう出るか」と、ブリヂストンユーザーも“選択”への不安がないわけではないようだ。
残り2レース、GT300のタイトルは“足元から”争われる。