最終戦富士の後半スティント、KeePer TOM’S GR Supraを追っていった場面では、燃料残量を考慮した山本の完璧なマネジメントが、最後の最後で勝利を呼び込むことになった。
「僕がプッシュを始めるタイミングがちょっとでもズレていたり、僕のプッシュの仕方が弱かったりしたら、相手にあそこまで燃料を使わせることはできず、37号車は普通にゴールしていたでしょう」と山本は振り返る。
トラフィックが絡む瞬間を最後まで狙い続けていた山本は、最終ラップに入る直前、最終コーナーで「首を伸ばしてストレートを見てみたら(笑)、GT300のマシンはほとんどいなかった」という。しかし、それでも諦めなかった。
「最後の最後で何かあるならガス欠かメカトラブルですが、それは僕にも言えることで、走りながらヒヤヒヤしていました」
結果は、キーパーの燃料が先に尽き、レイブリックの見事な逆転勝利となった。
「ギリギリな状況ではありましたが、自分が考えたプランどおりの理想的な展開となったことに、ものすごく興奮しました」と山本。
なお、最後の数周で燃料不足のアラートが点いたキーパーに対し、レイブリックはチェッカーを受けるまでアラートが点くことはなかった。しかし、レイブリックもチェッカー直後にはガス欠から燃圧が低下し、ウイニングランを走り切ることはできなかった。
これについては最終戦後の取材で、ホンダはエンジン関連のアラートをすべて解除してレースに挑んでいたことが判明したが、山本はこの件を知らされていなかったという。
「それを聞くとドライバーは不安になりますから、ドライバーはみんな知らなかったと思います」
「アラートが点いたのはガス欠になったとき(チェッカー後)で、事情が分かっていなかったので『いま点いても遅いでしょ?』って(笑)。裏ではそういうことがあったんだと思うと、アタマが上がりません」
ドライバーやチームだけでなく、ホンダ=HRD Sakuraとしても「攻め」の気持ちで挑んでいた最終戦。アラートの件について山本は「まんまとはめられました(笑)」と、開発陣への敬意を込めて表情を緩めた。

インタビューの最後、山本は「タイトルを獲れた最大の要因」について、こう口にした。
「最後にアクセルを踏ませてくれたのはチームだと思っています。長年在籍させてもらい、みんなの気持ちは分かっているので、最後に踏んでいけた」
「あとは任祐。あのような展開で僕がトップチェッカーを受けたからチャンピオン、というような印象になるかもしれませんが、チームメイトが任祐でなかったら間違いなく獲れていない。タイトルを獲れた最大の要因だと思います」
髄膜炎のためSF最終戦を欠場し療養中の牧野に、そろって話を聞くことは今回かなわなかった。だが、GT500を2回、SFを3度制した山本が、新たに迎え入れた若き相棒に全幅の信頼を寄せていることが、その言葉からは伝わってくる。コンビ結成1年目での最高の結末は、ふたりで力を合わせて手に入れたものだった。
苦闘の一年と最終戦の裏側を語り尽くしたインタビュー全文は、12月24日(木)発売のauto sport臨時増刊『2020-2021スーパーGT公式ガイドブック総集編』に掲載されている。