更新日: 2021.04.13 15:55
25歳のふたりが見せた名バトル。心を打った坪井翔の諦めない姿勢「『2位を守ろう』と言われてスイッチが入った」
74周目のオーバーランでテール・トゥ・ノーズから一転して山下との差は8秒差まで広がり、誰もが優勝争いは終わったと思われたなか、砂まみれになったタイヤでコースに戻った坪井は再びマシンをプッシュし、1周1秒単位で山下とのギャップを縮めはじめたのだ。
「飛び出たときは正直、チームに『ごめん』だったし『やっちゃった』という気持ちでした。なんとかコースに戻れて本当によかったです。でも、そのときのブレーキングでフラットスポットができて、クルマはすごく振動していました」
「それでも、最後の最後まで何が起きるのかがわからないのがレースなので諦めたくなかった。チームが後ろのとギャップを教えてくれて(3番手とは約8秒差あった)『2位を守ろう』と言われたのですけど、そこである意味スイッチが入ったというか『絶対に追いついてやる!』って。
「14号車はある程度マージンを持って走っていたとは思いますけど、できるだけ追い込めたかった。いつも心がけていることですが、最後まで諦めないことが大事なので、フラットスポットが何をしようが、ペースがいい限りはフルプッシュして追い詰められるだけ追い詰めたいなと思いました。周回数が少し足りなかったですけど、あそこまで縮めることができて……でも、やっぱり悔しいですね」
結果的に、再び1秒1差までトップのENEOS山下を追い詰めたところで、au坪井にとっては無念のチェッカー。
何度もバトルを仕掛け、横に並び、山下から激しいブロックを受けながら、坪井はライトをパッシングさせて最後まで諦めずに攻め続けながら、約30周に渡って繰り広げられた名バトルが終わった。マシンを降りて、山下のもとへ向かう坪井。
「『おめでとう』と伝えました。優勝は優勝なので。少し際どいレースで何回も僕が引くしかない状況というか、引かなかったら2台ともぶつかって終わってしまうような展開が続いたので正直、僕もフラストレーションが溜まりました」
「GRスープラ同士でぶつかってはいけないとはわかっていますけど、僕の方が圧倒的にペースが良くて、やはり1台分はスペースを残してほしかったなというのはあるのですけど、レースをやっている以上、逆の立場だったら僕もああいうレースをしていたと思います」と、悔しさを滲ませながらも山下への理解を示す坪井。
山下と坪井はともに1995年生まれの同い年。山下は坪井より2年先にスーパーフォーミュラに参戦を果たしたように、エリート的にステップアップしてきた。その山下とは対称的に、坪井は一度トヨタを離れ、再加入してキャリアを築き上げて来た。そして今回の岡山の前週のスーパーフォーミュラ開幕戦では山下は予選でまさかの最下位、坪井も決勝レースの終盤にスピンをしてしまい最下位。ふたりともこのスーパーGT開幕戦に懸ける思い、そして優勝争いのバトルには特別な感情があったに違いない。
「見てる人にとってはすごく楽しいレースができたのかもしれないですけど、チームとしても個人的にも予選も決勝も悔しい思いをしたのでつらいです。けど、冷静に考えれば3番手スタートから2位。順位をしっかりと上げてレースを終えることができた。あの速さがあれば今後も優勝のチャンスが絶対に来ると思う。常にこの速さを、(サクセスウエイトが)重くなっても続けられるようにすれば、おのずとシリーズタイトルは見えてくると思います。優勝もほしいですけど、一番ほしいのはシリーズタイトル。全8戦のレースを最後まで諦めずに戦っていきたいと思います」と前を向いた坪井。
闘争心剥き出しに坪井をブロックする山下に、何度も何度も果敢に挑み続けた坪井。25歳の若いふたりのファイターが見せた意地の名バトルに、今年のスーパーGTは若い世代が引っ張って行きそうな、新しい時代の変化を感じさせた。