HOPPY team TSUCHIYA 2021スーパーGT第1戦岡山 レースレポート
HOPPY team TSUCHIYA
レース結果報告書
2021 SUPER GT Rd.1
岡山国際サーキット
■日時 2021年4月10〜11日
■車両名 HOPPY Porsche
■場所 岡山国際サーキット
■ゼッケン 25
■監督 土屋武士
■ドライバー 松井孝允/佐藤公哉
■チーム HOPPY team TSUCHIYA
■リザルト 予選21位/決勝7位
完璧な準備と少しの幸運
ホピ輔が気になるのはお隣のこと
「ミッションは大丈夫なのか?」
「大丈夫らしいよ」
「そうか……」
レーシングオン誌の編集担当のヒトに聞いた話だけど、最期に勇太くん(土屋武士監督長男)と土屋春雄さんが交わした言葉これだったんだって。4月11日日曜の11時頃に旅立ったから、その言葉が信用できずボクのことが心配になって、決勝を前に岡山まで観にきてしまったんだね。最後の最後まで頭の中は「レース」。「生涯現役」をここまで文字通りに貫けるヒトはそうはいないと思います。つちやエンジニアリング創業者、土屋春雄さんのご冥福を心から祈念します。本当にありがとうございました。
改めまして、こんにちは。ボクはホピ輔です。本名は「HOPPY ポルシェ」。昨年からつちやエンジニアリングでお世話になりスーパーGTのGT300クラスに参戦しています。昨年に引き続きボクの目線で、つちやエンジニアリングの戦いぶりをレポートしていきます。
開幕に向けてボクには心配事がありました。今シーズンは武士監督がボクのことをあんまり面倒みてくれなくなりそうだということ。同じつちやエンジニアリングに新人のGRスープラ君がやってきて244号車として走ることになったんです。彼はGT300規定(去年までのJAF-GT規定)だから、けっこう手間がかかりそうで、そちらの面倒に武士監督がかかりきりになってしまうのではないかと、心配だったんです。ポジションとしては全体統括、そして2台のテクニカルディレクターになるとか。もちろんエンジニアの木野竜之介さんのことも、1シーズンともに戦ったことでボクのクセを相当に理解してくれたドライバーの松井孝允くんも佐藤公哉くんのことも信用しているけども、やっぱり武士監督にしっかりみていて欲しいというのが本音です。
しかし、幸か不幸か(?)、スープラ君の完成が遅れて、岡山公式テストはボクだけが参加して去年から進化したヨコハマ・タイヤをしっかりテストすることができました。昨シーズンは決勝で弱いことが多かったから、この強化が大きなテーマ。ロングランを中心にメニューを組み立てて、タイヤ選択を進めることができました。
去年のレースを始めた頃は、これだとタイヤが心配で走り切れない、レースで戦うどころではない……みたいなところにいたから、ヨコハマタイヤもボクもものすごく大きな進化を果たしたと実感できました。これならあとは木野さんと、孝允くん、公哉くんと落ち着いてレースができそう……。開幕に向けて安心材料が得られました。
ところが……。岡山で公式練習を走り出してみると駆動系にトラブルが出てしまい、公哉くんがタイヤ選択をした後は、完全な状態でセットアップを確認することができませんでした。公式テストである程度タイヤのことも、セットアップもわかってはいるもののやはり本番のコンディションで確認できないと不安は残ります。タイムは14番手。グループ分け予選でQ2に生き残れるか微妙なボーダー線にいるような感じでした。
「なんか“シャバく”てすいません」と公哉くん。
いつもの通り、予選Q1を担当したのは公哉くん。もともとボクにドライビングスタイルが合っていて、“一発”に定評ありますが、Q1突破には、あとコンマ2秒強足りませんでした。駆動系のトラブル自体はミッションをアセンブリーで交換することで解決。しかしロングラン重視のタイヤだったこともあり21番グリッドからのスタートと、抜きづらい岡山が舞台であることを考えると厳しい状況に追い込まれました。
「フリー走行でのトラブルを短時間でメカさんが直してくれて、不具合なく走れたのに伸び代が出せなくて申し訳ないし、ショックです。最終コーナーを少し慎重にいき過ぎたところが反省点ですけど、それがなくても通ったかどうか……。ここから力強く戦いますと言いたいところなんですけど、この子は集団行動が苦手ですし、初めての岡山でどうなるか」
公哉くんの言う「集団行動が苦手」とは、パックでのバトルだと厳しい面があるということです。ボクは前のクルマにくっつくとフロントのダウンフォースが抜けやすくて、NAエンジンなので立ち上がりトルクも細いから追い抜きがすごく難しい。タイトコーナーの多い岡山でボクのそんな弱点が出てしまうのか、それとも意外にいけるのか、こればかりはやってみないとわかりません。
公哉くんとは対照的に孝允くんは「クルマはやることがないくらいに決まっています。タイヤもしっかり選んだ上で岡山に入っているので不安はありません。明日の決勝に向けていい準備ができています」と言い切ります。
春雄さんは日曜の午前に亡くなりました。しかし、その連絡を受けた武士監督は、チームのみんなにはナイショにしていました。容態が厳しいことはみんな知っていることでしたが、決勝を前に動揺させないための選択でした。春雄さんに対して恥ずかしくないレースをしっかりやる。それだけを胸にレースに臨みます。
ボクは高速コーナーが苦手な反面、トラクションが必要な小さいコーナーの立ち上がり加速が武器です。スタートを担当した公哉くんはそこを活かして順位を上げてくれました。スタートで抜かれた18号車はヘアピンでアウトから並んでそのまま「コの字」ひとつめでインに入って、34号車はダブルヘアピンの入口でGT500に絡んだ時に、インにスルッと入ること成功。決勝は予選に比べて暑くなったから、ウチよりも他はタイヤ選択で厳しかったのかもしれません。
ルーティンピットの絶妙なタイミングで1コーナーのイン側に止まってしまった車両が出てピットは大混乱です。30周目にウチの244号車は当初からピットインを予定したので混乱なくピットインできましたが、ボクはタイミングが間に合わずもう1周することに。ここでピットクローズドされていたら、レース終了でしたがなんとかそれを免れてピットインすることができました。タイヤ交換の作業も速く、孝允くんに交代してピットアウト。ここでもぎりぎりセーフティカーの前に出ることができました。
ピットを引っ張ったクルマがピットインすると45周目には9番手に浮上していました。そのあともアクシデントで脱落するクルマなどもあり、67周目に8番手、70周目には7番手に浮上していました。アクシデントに見舞われるリスクは誰にでもあるわけで、孝允くんのドライビングのおかげでそれを避けられているのですが、天から見守っている春雄さんも少し後押ししてくれたのかなと感じずにはいられません。その孝允くんも後半はけっこう厳しく、フロントタイヤへのピックアップ(路面のタイヤカスを拾ってしまう現象)に悩まされてラップタイムを安定させるのに苦労していました。そこを乗り越えて77周完了でゴール。トップとは46秒も離されてしまいましたが7位入賞を果たすことができました。
去年の開幕戦は冒頭で言ったみたいに、レースできないみたいなところから始まったことを考えると、これは我ながらものすごい進化だと思います。その反面、みんなが完璧にやってこの差って、やっぱりちょっとな……とどうしても考えるところがあります。だってウチに244号車スープラ君がきたから、差がよくわかるんです。ちなみにスープラ君は5位入賞でした。
彼は岡山のテストがなくてぶっつけ本番だったし、トップタイムを出した富士合同テストでは、どっかのボルトがまだ入っていなくて文字通りの未完成で走っていたらしい。だから52号車の活躍をみてもわかるようにまだまだ速くなる可能性を秘めているんです。
それに比べるとボクは、しっかり準備ができただけに、あとなにをやればいいんだろうというところまで煮詰めての結果。木野さんは「生まれたてのクルマにこんなに差をつけられるとショックです。ある程度バランスがいいところまできてしまっているので、普通にやってもスープラには勝てない。そこは最大限以上にポルシェのポテンシャルを引き出さないといけないですね。普通じゃ思いもつかないような方法も含めて……フフ」と怖いことを言っています。武士さんは「もっとちゃんと正直にやっている人の言葉をくみとったほうがいいですよ」と言います。誰に向けた、どういう意味なのかはボクにはわからないけど……。
とにかく、次の富士もみんなの応援に応えられるように、そして天国の春雄さんのためにも、チームのみんなとボクもがんばります!
松井孝允のコメント
「チームがいいタイミングでピットに入れてくれて作業も速く、そのおかげでセーフティカーの前にぎりぎり出ることができました。あとはボクがひたすら走るだけでした。少し厳しい部分もありましたが耐えることができました」
「厳しいスティントではありましたが、いろいろ収穫がありました。今回決勝を戦ったタイヤはヨコハマさんとしても初めてレースに投入するゴムだったので、その点でもデータが獲れましたし、富士に向けてもこのデータは有効です。こうした結果がついてきてくれたのはチームのおかけで感謝しています」
佐藤公哉のコメント
「タイヤもクルマのセットアップも決勝に重きを置いてそれがうまく当たり、ペースを維持することができました。なによりもヨコハマさんのタイヤがレースでよくて、それに決勝セットアップも合っていて、気持ち悪いところがなく決勝を走ることができました。
「昨日はボクがシャバかったですけど、今日はちゃんと走ることができてよかったです。予選21位から7位はセーフティカーのラッキーもありましたが、作戦面などみんなで獲ったポイントです。本当にありがとうございました」
石渡美奈オーナーのコメント
「2018年の富士だったと思うのですが、久々にサーキットを訪れた春雄さんが、ニコッと優しい表情をして私の前に立っていたことがあって、いつもレースでは厳しい表情のイメージだったので、そのギャップに驚きました。いっしょに写真を撮らせていただいたいい思い出です。一昨年私も父を見送って社長として独立して、武士監督も春雄さんを見送り、本当の意味で独立するタイミングが奇しくも重なりました。先代の残してくれた価値を受け継いで、時代に合わせて進化させていく、これからもタッグを組んでよい連携をしていきたいと考えています」
「それにしても21位から7位のごぼう抜きはすごいですね。春雄さんが乗っていると感じました。それに山下(健太)さんや坪井(翔)さん、95年組つちやチルドレンのバトルも素晴らしかった。春雄さんがいましたよね」
土屋武士監督のコメント
「決勝ペースは安定していましたし、後半はピックアップで苦しみましたが、しぶとく着実にポジションを上げるレースができました。パフォーマンスと性能調整の関係など、現実は厳しいのも事実ですが、ボク自身に火がついた開幕戦でした。去年と比べればスタート位置が全く違うことは証明することができて、ポジティブな要素も充分あります。次戦以降もどうのこうの言わずに、やれることを出し切りたいと思います」
「ファイナルギヤのトラブルで公式練習が走れませんでしたが、安心してチームのみんなに任せていました。みんなに助けられて自分は何もしていない。すごく頼もしく思えた開幕戦でした」
「あと親父がレースを観たくてガマンし切れずに来たんだろうなと感じます。健太と坪井のバトルは最高でした。クリーンでフェアで、なおかつギリギリの戦い。レースファンにとって素晴らしい開幕戦だったんじゃないかと思いますし、親父も空からいいレースを観れて喜んでいると思います」