レース後、夕暮れどきの鈴鹿サーキット。喜びに沸くドライバーたち、ホッとした表情の田中監督、そして満足げな表情を浮かべていたメカニックたちの横で、実は喜びを感じながらも、悲痛にも近い、浮かない表情の人物がひとりいた。それは、つちやエンジニアリングの土屋武士代表だ。
土屋代表自身は、スーパー耐久参戦時からMax Racingのメンテナンスをつちやエンジニアリングで務め、エンジニアとしてたかのこの湯 GR Supra GTを自らドライブし、セットアップを担ってきた。自らが手塩にかけるHOPPY Porscheで、2020年の苦しい時期からヨコハマとともに開発してきたタイヤをたかのこの湯 GR Supra GTに投入し、それで勝てたのだ。
もちろん、担当したエンジニアとしては最高の結果だ。また、今春亡くなった父、土屋春雄さんは、たかのこの湯 GR Supra GTには関わっていない。「親父ぬきでこれだけのクルマを作ったということは褒めてくれると思う」と土屋代表は言う。そして、たかのこの湯 GR Supra GTは「まだまだ速くなる」とも。
しかし、自らが選び、自らが全幅の信頼を寄せる松井孝允と佐藤公哉が駆るHOPPY Porscheは、1周遅れの23位だった。繰り返して言うが、23位だ。前戦ツインリンクもてぎの際にも触れたが、どちらのクルマも土屋代表自らドライブし、同じタイヤを履いている。鈴鹿はGTA-GT300、GTA-GT300 MC規定で作られたクルマが得意であるということは、自らが良く知っている。しかしそれでも、この結果にはまったく納得がいかない様子だった。
「性能調整とは、いったいなんなのか?」と。
自分で乗っているだけに、この結果も土屋代表にとっては分かっていたことだ。今回、たかのこの湯 GR Supra GTを先頭にヨコハマ装着車がGT300クラスのトップ5を占めたが、土屋代表は松井と佐藤に「オレたちが作ってきたタイヤがトップ5になった。そこは誇ろう」と声をかけたという。だからこそ、この結果は悔しいものだし、何よりHOPPY Porscheのドライバーたちの気持ちを考えれば、浮かない表情になるのは当然だろう。
ワンメイクタイヤでない以上、GT300の性能調整は永遠の課題だ。どういう結果になっても、性能調整についてクレームを聞くのは、毎戦の筆者のルーティンだ。しかし、2台ともにすべての事情を知る土屋代表の言葉は重い。
たかのこの湯 GR Supra GTの気持ち良い勝利で、今季投入されたGRスープラの2台は、どちらも優勝を飾った。強いクルマが登場することは喜ぶべきことだが、参戦するすべての車両にチャンスが欲しい。せめて1シーズンに1戦でも。それはファンの願いでもあるだろう。

