さて、レースのトピックスはこのあたりにして、前回コラムの続き、エンジニアのコミュニケーションについて、お話ししましょう。
GT500のエンジニアともなると、自チームだけに留まらず、関連企業の皆様と会話する機会が多くあります。また、スポンサー営業的な場面や、メディアの皆様からインタビューを受けることも多々あるはずです。
それらは立ち話で済むこともあれば、電話やリモート形式のほか、面直での会議もあります。また、それぞれの場面に応じて、内容が機密事項にあたらないのか、分かりやすく話せているのか、レース直後は感情的にならないように、などなど注意すべき点が数多くあり、結構難しいもので一向に上手くなりません。
企業規模が大きくなると、人事異動が多くあります。数年で担当が変わることが珍しくはなく、多くのケースで若年者へ引継がれます。
一方でこちらは担当を外れることなく年月を重ねるのですから、年齢差は次第に大きくなるばかり。これが3回も繰り返せば10年です。世代間のギャップは、ときにズレを生み出します。それを埋めるような接し方や話し方も必要かと思います。彼(彼女)らは優秀です。いまできることや知識を積み重ね、レースに必要な技術をいち早く持っていただけるよう接しているつもりなのですが、通じているのかは謎です。
古い話になってしまって恐縮なのですが、かつてはレースのイメージは決して良くなく、世間の風当たりは強めでした。
誰もが手探りでレースをやっていて、負けたくない一心からの秘密主義。それなのに同年代が多かったこともあり、仲間意識だけは異様に強く、レースが終われば大騒ぎしていたのですから、イメージが良くなるはずがありません。現在の社会常識では通用しないことも多くありました。時を経て、それぞれが責任ある立場へと変わるのです。気ままな仲間意識だった関係が、時を経て利害関係へとつながることもありますので、若い頃のお付き合いは節度を持って行いましょう。

チーム内に目を向けると、レースパフォーマンスを上げるためには、ドライバーとエンジニアと車両担当メカニック、3者間のバランスがとても大切です。互いに尊重できなければ、決して良い成績を収めることはできません。
前回のコラムでは、ドライバーとエンジニアの意思疎通には1年かかると言いました。メカニックとエンジニアの間も、それくらいの期間が必要に思います。ドライバーよりも過ごす時間は長くなりますし、仕事に対する向き合い方も見えてきます。意図が伝わるように話すことが大切に思います。
マネージャーと呼ばれる職種があります。日本のレースチームでは、女性がそのポジションにあることが多いです。彼女達はスケジュールや健康管理、装備品やドリンクの準備、各種申請、移動やホテルの手配等、想像を絶する仕事量を抱えています。サーキットでは相当な距離を歩くことになり、その“疲労・体力レシオ”はメカニックを上回ります。彼女たちには、ありがとうの言葉と甘い物。これを忘れてはいけません。
SFやGT500を優位に戦い抜くのは、そう簡単なことではありません。ドライバー、監督、チームスタッフ、サポート企業の皆様との連携が大切で、エンジニアはそのど真ん中。レースを重ねるごとに多くのことを学び、懐を深くしてゆくのです。
失敗を恐れず、強引になりすぎず、遠慮しても駄目、山勘を避け、即断即決できること。だからB型が向いていると思っていたのですが、周りを見渡すとそうでもない雰囲気です……。
