序盤戦から高いポテンシャルを見せたのは、今季3台へと増えたGRスープラ勢だった。
第2戦富士のロングレースでは埼玉トヨペットGB GR Supra GTが終盤までトップを独走。まさかの駆動系トラブルによりレースを失ったものの、こぼれ落ちた勝利を拾ったのはSYNTIUM LMcorsa GR Supra GTだった。
この時点でGRスープラ2戦目だったSYNTIUM LMcorsaは車両開発の途上。別項にみるようにGT300規定の利を活かし車両のアップデートを重ねてポテンシャルアップを図ったが、車重が1300kgを超えると「急激に遅くなってしまう」(小藤純一エンジニア)とウエイト感度の高さに苦戦した。SUGOではセットアップをまとめて予選3番手を獲得したが、重い状態ではタイヤとのマッチングもピンポイントなものとなり、苦労は続いたという。

また、ブリヂストンタイヤの安定性を武器に迎えた2年目のシーズン、タイトル争いに期待がかかった埼玉トヨペットも、富士で勝利を逃して以降、中盤戦は失速気味に映った。
これについて吉田広樹は「ヨコハマさんが全体的に上がってきたから」と中盤戦の勢力図を分析する。
「僕らは開幕戦からずっと“決勝に強いタイヤ”で戦ってきました。最初はそれがうまくいったけど、ヨコハマ勢が上がってくるなかで、自分たちが決勝重視のタイヤで予選にいくとQ1を通れなくなってしまった。レースペースはとてもいいので、僕らも間違っていたわけではないのですが、予選で前に行けなくなってしまったのが夏場だったと思います」
実際、冒頭でも触れたようにヨコハマ勢の開発はリアライズに追随して他の車種でも進んでいた。
なかでも夏場に顕著な成績を残したのは、たかのこの湯 GR Supra GTだ。第4戦もてぎ前、6月に行なわれたテストで対策パーツを持ち込み「理にかなった反応」が車両から得られたこと、そしてこのもてぎからタイヤが進化したことで、予選2番手を獲得。続く第3戦鈴鹿でも新コンパウンドを投入し、見事優勝を飾った。
田中哲也監督は「ウエイト的にも、優勝しなくてはいけないタイミングだった」と振り返る。「ただ、寒い時期にパフォーマンスが発揮できていない。そこは楽観視していませんし、中盤戦にしても他チームが取りこぼしていなかったら、最後までタイトル争いができる位置にはいられなかった」と評価は厳しめだ。実際、冬の寒さのなか行なわれた最終戦では、ライバル2台のGRスープラに匹敵するペースは見せられなかった。
スーパーGTフル参戦デビューを飾った堤優威も、他2台のGRスープラについて「まずはそこに負けないこと。チームとしては、めちゃめちゃ気にしている存在です」と語っていた。“GRスープラ内順位”は2番手で決着したが、2022年も同車種内での車両・タイヤの開発競争は、見どころのひとつとなりそうだ。

■苦戦したGT3勢
リアライズと同じくニッサンGT-R勢の中核を担うゲイナー陣営。今季は2台ともダンロップタイヤを装着し、セットアップの分担や情報共有が進むことでさらなる上位進出が期待されていた。
しかし、前述のBoPの件に加え、「前半戦はタイヤ開発がうまく進んだが、後半は噛み合わず」(福田洋介エンジニア)、最終戦の決勝までタイトル争いに残ることはできなかった。ノーウエイトの最終戦では全車がQ1落ちを喫していることからも、GT-R勢にとって厳しい状況だったことは間違いない。
ゲイナーに関しては、第2戦富士で2台そろってタイヤトラブルにも見舞われた。数少ないテストではトラブル対策にも追われ、レースには「イチかバチか」というセットアップで臨まざるを得ない状況も多かったという。その結果、歯車がうまく噛み合わず結果が出ないという、リアライズとは対照的な負のスパイラルに陥ってしまった面もある。
また、タイトル争いの常連であるLEON PYRAMID AMGの黒澤治樹監督も「トータルするとJAF-GT(GT300規定)が強かった一年、という印象ですね」とシーズンを振り返る。
「僕らも大きなミスはしていませんが、『ポイント×3kg』のウエイトルールになってからは、序盤で1回表彰台に立ってしまうと、“再起不能”みたいになってしまう。実際、僕らも表彰台に上がれたのはウエイト0㎏の開幕戦と最終戦だけ。もともと重いGT3車両としては、そこからさらにウエイトを背負うと、どうしてもつらい状況になってしまいます」
ウエイトに対応するアップデートや開発ができたGT300規定勢と、ホモロゲーションによりアップデートは許されず、基本は“タイヤの進化頼み”となるGT3勢。劣勢の状況のなか、内圧やキャンバー角の設定を攻めれば、タイヤを破壊することにもつながってしまう。そのあたりの難しさも見え隠れした2021シーズンだった。
