更新日: 2023.07.26 22:29
カリスマよりもデータ、そして人の力の連携。7年ぶりのGT500優勝を飾ったWedsSport ADVAN GR Supraとヨコハマタイヤの開発物語
「ヨコハマタイヤはみんなで戦っている感がすごく強くて、隠さずにいろいろなことを教えてくれますね」と語るのは、7年ぶりにGT500優勝を飾った国本雄資だ。予選や決勝の後は、タイヤに関するミーティングを長時間かけて行っている19号車陣営だが、彼にとっては“やりがいを感じる時間”になっているという。
「これまで他社のタイヤを履いていた時は走行後に担当のエンジニアひとりと話をして終わりでしたけど、ヨコハマタイヤでは構造、ゴム、データ解析とそれぞれの担当者が一緒になって、みんなで話をします。ドライバーとしては、そこで欲しい情報をすぐに手に入れられる感じです」と国本。
「それこそタイヤを作る工程も全部教えてくれて、『このような構造にしたから、こういった動きになるかもしれない』とか、『今回は何を変えている』とか、エンジニアさんがこと細かく教えてくれますし、僕たちドライバーの意見も聞いてくれます。タイヤについてすごく勉強ができるし、一緒にやっていて楽しいですね。やりがいを感じます」
ヨコハマスタッフたちのタイヤ開発の矜持
一方の横浜ゴムのスタッフたちも、7年ぶりの優勝と今季の手応えを確実に実感している。今年で4年目を迎えるスーパーGT開発統括の白石貴之エンジニアが話す。
「新しい開発がかなり進んでいます。去年は24号車がレースで良かった部分に対して、今年の19号車が24号車を追随するようにいろいろなセットアップを試して頂けたおかげで、今まで以上にタイヤの使い方、タイヤに合わせたセットアップ、チームとタイヤメーカーがいろいろやってきた成果が出てきたと、素直に嬉しく受け止めています。今年に関しては、特に材料に関する進化は大きかったと思いますね」
その材料面、素材を担当するスーパーGT材料開発統括の原祐一エンジニアが話す。
「これまでずっと、ピークとロングランの両立というところをターゲットに開発を進めてきていまして、ピークを取るとロングランが良くない、ロングランを取るとピークが良くないと、どちらかになってしまうところで苦労してきました。その中で、ウォームアップ性能に関してはそれほど重視していなかったのですが、去年はそこがクローズアップされてしまう結果になったので、その部分の開発を進めましたら、思いの外、効果があったというのが我々の認識ですね」
横浜ゴムとしても、これまでの常識を覆すように、開発面でも新しい取り組みを進め、それが奏功しつつある。
「GT500のタイヤ開発は非常に難しい。タイヤのコンパウンドは何が合うのか、試験方法を開発することもありますし、ゴムの開発もスプリント的な要素、耐久的な要素のバランスが難しい。温度レンジも広い。ベストマッチする原料はどんなものがいいのか。そう言う部分を詰めています」と原エンジニア。
「これまでより、かなりシステマティックに開発を進めています。設計の部分は理論と数字を重視して、かつての職人的な勘に頼るという要素よりも、数字、データにこだわるという方針で進めています」と続ける。
坂東監督と国本のコメント、そして開発スタッフの言葉にみられるように、多くの情報を集め、それをオープンに共有しながら意見を交わして次に進む。これまでのレース界ではカリスマ的な監督、そしてドライバー、エンジニアの判断や個の力で進められていた部分が多かったが、19号車と横浜ゴム開発陣はまさに真逆のアプローチとも言える。
最後に必要なのは“携わる人のモチベーション”
こうして多くの人の連携とそれぞれの努力が結集し、7年ぶりの優勝を飾った19号車。最後に坂東監督はヨコハマタイヤの進化について“タイヤに関わる人たちの成長と意識の変化”を、ひとつの要素として挙げた。
「人が少しずつ育ってきているのが大きいです。横浜ゴムさんは数年したら異動によって人が入れ替わります。他のタイヤメーカーさんだと、ずっと現場にいる方もいますが、横浜ゴムはそうではないです。その中で携わる人たちも徐々に育ってきました」
「結果が出ないときって辛いですよね。作る人たちのモチベーションは本当に大事です。やっぱり料理と一緒で、同じ材料を使っても作る人のモチベーションによって変わります。そういう意味で横浜ゴムが変わってきているのは、チャレンジャーとして自分たちのポジションと役割を明確化しているからだと思います」
ヨコハマタイヤの開発を率いる白石エンジニアも、すでに次を見据えている。
「去年、課題になっていたタイヤのウォームアップという部分で、今回の鈴鹿では毎回、ピットインの後はいいタイムを出せて改善できていたのですけど、追い上げてきた36号車(au TOM’S GR Supra)が速かったので、レース終盤は厳しい戦いになると思っていました。ですので、結果としては勝っていますけど、レースとして完全に勝てたという実感は正直まだないです」と、白石エンジニア。
「かつてのヨコハマタイヤは得意なサーキット、不得意なサーキットがはっきりしていた部分がありましたけど、苦手領域を克服するような開発ができているので、いろいろなサーキットで競争力を出せてきていると思っています。19号車とともに、24号車も19号車に負けないポテンシャルがあります。次の富士では幸か不幸かサクセスウエイトも軽いので、かなり期待できますし、ヨコハマタイヤ勢でなんとか2勝目を飾りたいと思います」と、次こそ観客の前でのトップチェッカーを目指す。
7年ぶりの優勝を飾ったWedsSport ADVAN GR Supraと、進化が著しいヨコハマタイヤ。チーム、ドライバー、開発陣がいい流れでパフォーマンスが高まっている中、今季2勝目、そして悲願のGT500王座獲得に向け、彼らのチャレンジはまだまだ続いていく。