現代レーシングカーの基本思想として、装着が義務付けられる衝撃吸収構造、いわゆるクラッシャブルストラクチャーは前後方向とサイドインパクトを想定する。そのうえで、バスタブ構造のモノコックを採用する車両では、セーフティセルの役目を果たす目的で「モノコック自体は潰れない構造にしてある」のが基本だ。ただしルーフからの衝撃を想定したテストは当然なく、その意味でも「幸運に幸運が重なった」のが実感だという。
「当たり方、それから体に掛かる負荷がうまく分散されたのでしょう。ルーフから当たるテストはないですからね……。でも、頑丈イコール安全かというと、やはり当たり方次第で直接入力が入れば、ドライバーは骨折することもあります。それでいくと今回はかなり幸運な当たり方で、セルは完全にプロテクトされました」
はからずもGT500規定の安全性を再度、立証するかたちとなった23号車だが、鈴鹿戦後に本拠地へと運び込まれた車両は、前述のとおりモノコックのダメージ検証を経て交換を決断。当然、その前後に繋がる共通サブフレーム類や共通アップライト、そのほかのコンポーネント類もすべて交換することとなった。
「ですので、実質もう1台の開発車を作ったようなモノです……。とはいえ、毎回レースが終わるたびにバラバラに(してクラックチェックとセットダウン)はしているので、工程としてはそれほど複雑ではないのですけど、いかんせんモノが揃わないとできません。その点、部品が来るのに1カ月くらいは待ちました」
完成以降、チェック走行などの機会もなく8月5日(土)の第4戦公式練習を迎える23号車だが、前述のとおり車両全体を組み直して臨む点はいつもどおりだ。走り出しから確認作業を進め「キチッとレースを見据えて戦っていく」という。
ただし、昨季の3号車(2022年第2戦富士)のモノコック交換時とは異なり、23号車はアクシデントの起因となったことからか、今回はレーススチュワードからモノコック交換したことによるペナルティを受けることになった。
「今回はペナルティがあるので優勝は簡単に狙えるところにはないです。それでも、いつもどおりのルーティンワークを重ねていきます」と松村総監督。モノコック交換でのペナルティは、今季開幕戦で8号車ARTA MUGEN NSX-GTにレース中に5秒ストップが科されている。
ただし、日曜は天候が不安定になるとの予報もあり、展開やタイヤ選択次第ではあらゆる可能性も想定できるのが450kmレースだ。そのためにも、23号車復活の筋書きは土曜公式練習の走り出しに掛かっている。
