更新日: 2018.02.15 15:32
【Honda】「2009年本田賞」子宮頚がんの予防ワクチンを開発した豪州のイアン・フレイザー博士に本田財団が授与
「2009年本田賞」子宮頚がんの予防ワクチンを開発した豪州のイアン・フレイザー博士に本田財団が授与
(財)本田財団(設立者:本田宗一郎・弁二郎兄弟、理事長:川島廣守)は2009年の本田賞を、世界初の子宮頚がん予防ワクチンの開発に貢献したオーストラリア・クイーンズランド大学教授のイアン・フレイザー博士(Ian Frazer)に授与することを決定した。同博士は30回目の本田賞受賞者となる。
子宮頚がんは女性特有の病気としては乳がんに次いで死者数が多く、毎年世界で50万人が発症し、27万人が命を失っている。その約8割は健康診断制度が整っていない発展途上国の女性である。フレイザー博士の技術を用いて開発された子宮頚がん予防ワクチンは、2007年からオーストラリアや米国で公的助成による接種が開始されるなど、現在では世界100ヵ国以上で使用されている。同ワクチンは人類ががんを制圧した初めての事例とも言われ、公衆衛生界の大発見と称されている。
子宮頚がんの原因は「ヒト・パピロマ・ウイルス」(HPV)であることが判明している。このHPVの中で、知られているだけでも約15種ががん発症につながる可能性が高いハイリスク種で、特にHPV16型と18型は世界で発症した子宮頚がんの約7割から検出されている。1983年、ドイツがん研究センターのハラルド・ツア・ハウゼン教授(Harald zur Hausen=2008年ノーベル生理学医学賞受賞者)のグループがこの16型遺伝子を抽出し、子宮頚がんの原因であることを証明。以来、世界の研究者がワクチンの開発に取り組んできた。フレイザー博士の技術を用いて開発されたワクチンは、HPV16型と18型への抗体を作るもの。
フレイザー博士と同僚の故・周健博士(Jian Zhou)は、HPVの外皮である「カプシド」を残しつつ、中身を無害なタンパク質系の遺伝子に組み替えるという独創的手法を用いて、接種する人体への副作用がないワクチンの基礎を築いた。世界では、同博士の基本技術を採用した米国メルク社と英国グラクソ・スミスクライン社がワクチンを開発・生産。公的助成制度を導入し、これらワクチンの普及を図っている国々も多い。
フレイザー博士がワクチンの基礎技術開発に駆使した最先端のエンジニアリング技術と、その成果を持って世界の多くの女性の生命を救済、さらには、人類という種の保存にも貢献していることはエコテクノロジー※具現化の一例であり、本田賞にふさわしいものと考える。
第30回本田賞授与式は、2009年11月17日に東京の帝国ホテルで開催され、副賞として1,000万円(約12万5,000豪ドル)がフレイザー博士に贈呈される。博士はこの副賞を所属する大学の研究チームに寄付する意向を示している。
※エコテクノロジー(Ecotechnology):文明全体をも含む自然界をイメージしたEcology(生態学)とTechnology(科学技術)を組み合わせた造語。人と技術の共存を意味し、人類社会に求められる新たな技術概念として1979年に本田財団が提唱。