更新日: 2023.04.25 17:15
GOODSMILE RACING & Team UKYO 2023スーパーGT第1戦岡山 レースレポート
■2023 AUTOBACS SUPER GT Round1 OKAYAMA GT 300km RACE
■DATA
会期:2023年04月15〜16日
場所:岡山国際サーキット(岡山県)
観客:予選7800人:決勝1万4500人
予選:5位
決勝:9位
獲得ポイント:2Pt
シリーズ順位:9位(2Pt)
GT300クラス3冠を誇る谷口信輝選手と片岡龍也選手、そしてGOODSMILE RACING & TeamUKYOが、4月の岡山国際サーキットで2023年開幕の日を迎えた。
今季のGT300クラスには12車種27台がエントリーされており、タイヤメーカーは、ヨコハマタイヤ、ブリヂストン、ダンロップ、ミシュランの4ブランドが参戦する。さまざまな車種と、上級カテゴリーのレースシリーズでは今や世界的にも珍しくなった複数のタイヤメーカーによる争いはスーパーGT GT300クラスの最大の魅力だ。
GOODSMILE RACING & TeamUKYOの体制は、安藝貴範代表、片山右京監督、谷口信輝選手、片岡龍也選手のフロントメンバーに、マシンはメルセデスAMG GT3、タイヤはヨコハマタイヤ、そしてメンテナンスガレージにRSファインと、2012年から続くお馴染みのパッケージだ。
今季の行方に大きな影響を与える可能性のあるポイントとして、昨年11月のシリーズ最終戦の際にプロモーターのGTアソシエイション(GTA)から発表された『スーパーGTグリーンプロジェクト2030』がある。このプロジェクトはスーパーGT全体での二酸化炭素排出量を50%削減することを目標としてさまざまな取り組みを行っていくものだ。そのひとつとして、各種のレギュレーション変更がおこなわれている。
まず、持ち込みタイヤセット数が『ドライタイヤ5セット』、『ウエットタイヤは6セット』と、昨季より1セットずつ削減された。また、燃料は今季よりドイツのハルターマン・カーレス社製カーボンニュートラルフューエル(CNF)『GTA R100』の使用が義務付けられた。ただし、GT300クラスでは「エンジンの適合に向けた対応」を行う猶予期間として、第1戦と第2戦での使用は見送られた。これらの変更により、各チームは戦略やマシンのセッティングの見直しを迫られることになる。
そしてさまざまな車種が参戦するスーパーGTのようなレースでは各車両のパフォーマンスを均衡させる必要があるため、BoP(バランス・オブ・パフォーマンス)と呼ばれる性能調整が行われる。この開幕戦でメルセデスAMG GT-3に課せられたBoPは、エアリストリクター(エンジンへの吸気量を制限して出力を抑制する部品)が、自然吸気(NA)エンジン車のなかで最も小さい『34.5mm径×2』で昨年開幕戦と同様、車体重量1285kgに加えられるBoP重量は+35kgで、昨年の+45kgから10kg軽減された。
4月15日(土)【公式練習・公式予選】
天候:Q1曇り/Q2曇り
コース:ウエット
気温/路面温度
GT300 Q1開始時:14度/15度
GT300 Q2開始時:14度/15度
終了:15度/16度
ドライコンディションが期待されていた土曜日のプラクティスセッションだったが、週末に向けて予報は悪化の一途をたどり、当日は朝から雨。午前9時10分のセッション開始を前にWET宣言が出されていた。気温13度、路面温度14度のコンディションのもと、走り出しを担当した片岡選手がウエットタイヤの感触を確かめる。
ピットレーン・オープンとともにコースに入った片岡選手は、水煙を上げながら計測12周目に1分39秒776を記録するとすぐにピットへと戻り、異なるスペックのタイヤでコースへ向かった。しかし、その直後モスSでGT500車両が大きくクラッシュしたことにより、赤旗が掲示されセッション中断となる。
約30分後の10時10分に走行が再開される。再びコースに出た片岡選手は、ここから1分41~42秒台でラップを重ねていったが、強い雨が降り続いており「コース上の水量が多過ぎるかも」という片岡選手の言葉どおり、GT300クラス占有走行枠の10時35分を目前にして、「雨量の増加により」再びの赤旗が掲出される。その後再開されることなくそのままセッション終了となった。当初のスケジュールでは占有走行枠で谷口選手がステアリングを握る予定だったが、赤旗終了したことで公式練習では1周も走ることができなかった。時間を追うごとに雨量が増えたため、序盤に記録した1分39秒776がベストタイムとなり11番手で公式練習を終えた。
公式練習が赤旗終了したことを受け、直後に10分間予定されていたFCY(フルコースイエロー)テスト枠は急遽『フリー走行』に変更された。谷口選手はここで初めてコースインするも雨量が多過ぎたため2周でピットへ戻ることに。コンディションやタイヤの確認がほぼできず、午後の予選に向け不安要素を残す状況となってしまった。
午後2時、気温、路温とも午前から大きな変化がなく、降り続く雨によりコースはヘビーウエットなコンディション。予選Q1は前年度ランキング順にA組とB組に振り分けられ、4号車グッドスマイル 初音ミク AMGはB組となる。通常であれば予選Q1は10分間で行われるが、タイヤのグリップ発動に必要な時間を考慮した措置として、走行枠が15分へと拡大されていた。しかしそれにも関わらず、14時ちょうどにスタートしたQ1A組は、アタックを済ませていないマシンを多く残したまま、雨量の多さを理由に午後2時9分に赤旗終了が宣言された。
Q1B組は雨が弱まるのを待って予定より15分遅れて午後2時33分に開始された。Q1を担当した谷口選手はセッション開始直後にピットをあとにした。「こんなコンディションでは、結局はそのときのコースにある雨や水の量、そことタイヤがマッチするかしないかがすべて。走るところ(雨でも路面のグリップする部分)は、どうせアタックするまでに探さないといけないのだから、練習できてなくても問題ない」と、さすがの天才肌発言。ウエットタイヤのグリップを掌握していく。
その谷口選手は有言実行のドライビングで、タイム更新合戦と化した15分間で常に自己ベストを更新しトップ5圏内を刻み続け、計測8周目に1分40秒134をマーク。コントロールライン通過時点で4番手、その後ライバルのタイムアップで順位を落とすも、6番手でQ1を通過しQ2担当の片岡選手へとバトンを繋いだ。
予選Q2は片岡選手が担当。セッション開始とともにコースに飛び出しウォームアップを開始すると、計測4周目よりタイムアタックに入った。1分39秒台から徐々にタイムを詰めて1分37秒台へ。タイム更新が鈍った計測8周目に意図的にペースを落としてタイヤをクールダウンすると、タイヤが持つ最後のグリップを搾り取るべく渾身のアタック、1分37秒070の自己ベストを叩き出して5番手でチェッカーフラッグを受けた。今季最初のレースとなる翌日の決勝は5番グリッドから挑むこととなった。
ポールポジションはブリジストンタイヤを装着する65号車メルセデスAMG GT3。同じ車種にも関わらず約1秒の差を付けられてしまい、レインタイヤの性能差の大きさを見せつけられた。
4月16日(日)【決勝】
天候:晴れ/曇り/雨
コース:ドライ/ウエット
気温/路面温度
スタート前(13:15):19度/30度
序盤(13:40):18度/23度
中盤(14:20):16度/24度
終盤(16:00):13度/16度
ゴール時(16:25):11度/14度
土曜の荒天とは打って変わり、日曜は朝から青空が広がった。まさに“晴れの国おかやま”という穏やかな空気のなか、イベント広場では各種の物販テントやステージイベントに人だかりができ、ピットウォークでも各チームがギブアウェイの配布やサイン会などを催し、ごく一部に制限は残るものの、コロナ禍以前のようなにぎわいがサーキットに戻ってきた。
しかしスタート進行が始まるころ、快晴だったはずの空にみるみる鉛色の雲が広がり始めた。そしていよいよ決勝レースに向けてマシンが動き始めようとした1時30分、ポツポツと雨粒が落ちはじめた。天気予報でも決勝中の降雨は予想されていたが、そのタイミングはレース後半だと思われていたため、予想よりも早まった降雨にレース直後からパドックは慌ただしさを見せる。
序盤の路面がドライな間は、片岡選手は5番手を堅持し、背後で目まぐるしく順位を入れ替える31号車(apr LC500h GT)、52号車(埼玉トヨペットGB GR Supra GT)、56号車(リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R)ら追走集団を抑えつつ、前を行く88号車(JLOC ランボルギーニ GT3)と7号車(Studie BMW M4)の隙を伺う。
しかし、いよいよ雨脚が強まって来た14周目、片岡選手の2台前を走行していた7号車が突如、異変を見せる。「突然、強烈にアーリーブレーキになって。それで僕も含め後ろが混乱し出した。その隙にまずは88号車を抜き、今度は僕が7号車に仕掛けた」と、状況を振り返った片岡選手。
路面はほぼウエット。周囲のライバルもスリックタイヤで粘るなか、ほとんどレーシングスピードを維持できないスロー走行のような状態で、ダブルヘアピンの2個目で勝負に出る。
「比較的速いスピードからのブレーキが何十mも早いんじゃないか、っていうぐらいブレーキが早かった。それでブロックもされて危なかったので、ダブルヘアピンの遅いところなら横に並べるだろう」とインを刺した瞬間、相手もレイトブレーキングで応じてくる。
「それでボディサイドでなく、後方に当たる結果になった。これで『ドライブスルーは喰らうだろうな』と。濡れてるスリックだから、その状況もめっちゃスローモーション。一瞬、さらに押して『戻そうか』とも考えましたが……。取り敢えずその後も『行くしかない』と」、気持ちを切り替えホームストレートへ戻ってくる。この接触の横を一度は抜いた88号車に抜き返されて順位は4番手となっていたが、2番手を走行していた2号車(muta Racing GR86 GT)がウエットタイヤに交換するためにピットに入ったことで3番手となる。
時を同じくして6号車(DOBOT Audi R8 LMS)が1コーナーでコースオフ、グラベルに捕まりFCYが掲示されピットレーンがクローズされる。さらにバックストレートでは11号車のタイヤが脱落するなど、立て続けのアクシデント発生ですぐさまセーフティカー(SC)出動となった。この直前に56号車に抜き去られていたが、一方で88号車がヘアピンでコースオフして順位を戻す。既にドライタイヤでの走行は限界を迎えていた。
「本当ならあの周で入れていたら……とも思うけど、無線で(ピットインの)連絡が入ったときちょうどピットレーン入り口のすぐ脇だった」というタイミングの悪さもあり、FCY導入でピットレーンクローズされたことで、スリックタイヤのまま先導走行を強いられることになってしまった。ピットレーンクローズ解除となった18周目にようやくタイヤ交換に飛び込むが、ここでも不運が連鎖する。
「(FCYの)直前に56号車に前に出られていて、それが前の隊列から……もう300mとか400mとか離れてしまって。これでピットに入るタイミングが何十秒も遅れ、さらにそのタイミングもあってか、出口の信号が目の前で赤に……。アレで合計1分くらいは損したんじゃないかなと」
ピットレーン出口の信号が青になると、ウエットタイヤに交換した片岡選手は11番手でコースへ復帰する。22周目に8番手までポジションを回復。その後も1分38秒台のペースで周回を重ねる。しかしここで7号車との接触に対して「ドライスルーペナルティ」が宣告され、27周目にピットレーンを通過。15番手で車列に復帰すると、96号車(K-tunes RC F GT3)、244号車(HACHI-ICHI GR Supra GT)をオーバーテイクして、37周目のピットインで11番手まで回復して谷口選手へバトンタッチする。
徐々にドライアップする路面に合わせ、この週末で初のスリックタイヤを履いた谷口選手は、皮むきの済んだグリップ発動の早いセットを存分に活用して追い上げを開始する。右京監督をして「予選も含め、いつも大したもんだわと思うよ、ほんと」と言わしめる驚速のアウトラップを披露し、アンダーカットも成功させ14番手のコース復帰からみるみるポジションを上げていく。
しかしこの日の混沌はこれだけで終わらなかった。44周目にヘアピンで61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)がコースオフしてFCYが出されると、解除後の48周目には9号車(PACIFIC ぶいすぽっ NAC AMG)と88号車がモスSからアトウッド手前で接触し、ここで再びのSC出動となる。
FCY中、「前にいる56号車のスピードリミッターが遅く、詰まった」という状況もあり、FCYが終了してリスタートした直後にGT-Rをパスして8番手を走行していた谷口選手だが、51周目に雨が激しさを増したことでこの日2回目の赤旗掲出となってしまう。
スリックタイヤ装着のままホームストレート上に停車した4号車は、52周目のSC先導リスタートのなかでピットレーンオープンとともにすぐにピットへ向かい、ここでウエットに履き替える選択をする。しかし大混雑と化したレーンではロスタイムは避けられず。リリース以降、ピット出口までのファストレーンも「出てくるクルマの大渋滞でごった返し」て、10番手にダウンしてしまう。
しかしSC先導中に8番手だった2号車(muta Racing GR86 GT)がタイヤ脱落のトラブルで停止したことで9番手にポジションを上げると、59周目に再度の赤旗中断に。レース最大延長時間の午後16時30分が迫る16時20分になんとかSC先導でのリスタートが試みられたが、雨は全く収まらず、その5分後には三度赤旗でレースが止まる。この段階で「決勝レースは赤旗で終了」と宣言され、結果的に入賞圏内の9位フィニッシュ。混戦の強さを持ち味とするGSRは、ドライブスルーペナルティなどに翻弄されつつも、2ポイントながら、2年連続で開幕戦のポイントを持ち帰る結果となった。
■チーム関係者コメント
安藝貴範代表
「期待して臨んだのでちょっとガッカリですが、ピットの判断も含めクジ引きみたいなところがあって。自分たちの状況がどうなのかを把握するのも難しいくらいでした。予選でタイヤのチョイスも悩んで、走行枠が15分になったから硬めを選んでしまった。当初の想定どおり、もう1種類の方を選んでいれば、あと少し前の方にいたかもしれない。混乱するレースほど前にいた方が主導権を取れるし『前にいなきゃいけなかったんですね』っていうのがほぼすべてですよね。週末を通してチョイスが少しずつ裏目、裏目に出て、ドライブスルーも勝負のアヤというか。選択がどっちに転んだかわからないことがたくさんあり、それがちょっと悪い方や不利な方に働き続けた。次戦は450kmで距離は長い方が我々には有利。ミスなく行きたいですね」
片山右京監督
「ぶっつけ本番のQ1も、谷口に「もうちょっと練習した方がいいんじゃない?」って言うんだけど、でも本人が「大丈夫」って言うからさ(笑)。ほんとに、それはさすがだと思う。普通はそれができないんだけどね。パッと走らせて道具の97~98点を引き出すっていうのは。様子を見ちゃったり、ビビってメンタルにも影響する……まして雨のちょい濡れだとかね。アウトラップも「アンダーカットに行くんで頑張って」って言ったら、ああいう濡れててスリックみたいなコンディションで、ちょっと皮剥きしてあったら、めちゃくちゃ速かったから。レース後もふたりで「まったくそういうとこ、衰えないね」って(笑)。今週は1個1個の判断が本当に裏目だったけれど、コンディションがあれ以上ヒドくならないで『もう10周でいいからやれてたら』って思わせてくれました」
谷口信輝選手
「予選Q1は覚悟決めて行くしかないんで(水量の多い)モスエスとか2コーナーとか。むしろ練習で怖い思いする量を減らしたい。決勝のスティントはスリックで出ていって、いい感じで前に追いついていったからちょっと楽しかったんだけどね(笑)。56号車も抜けそうだったのにFCY……。週末はキャリブレーションしていないし、ウエットタイヤの外径差か、リミッターが遅くて「詰まるのはいいけど、前と離れる」と。最後にウエットに換えたピットも、大混雑がわかってるなら「どうせ混むから1周行く」って言えてれば「優勝だったじゃん!」と思って。厳しかったのは重々承知だけど、タナボタがそこにあったかと思うとすごく悔しい。メルセデス同士の差も4秒が1秒になったかもしれないけど、まだまだ負けている。我々とヨコハマさんとで頑張らないとね」
片岡龍也選手
「難しいレースでしたし、ドライのままでもちょっと苦しかった。なので雨が降ったところでチャンスを見い出そうと。7号車のペースがかなり落ちていたから、それをなるべく早く処理しようと思って少し焦ってしまった。そこで56号車にわずかに前に出られてしまったことが、次にピットへ入る際の大きなロスに繋がってしまった。ウエットに交換後は比較的、目の前にいるクルマは追い越していけたんですけど、こんなコンディションだし「もう一波乱ぐらいあるか」とは思ってました。でもそう思った矢先の2度目のSCで……ノーチャンスになりましたね。取り敢えず、タイヤは取れなかったですし(笑)、クルマは良くなって来てますけど、ライバルに対しての差であったり、今回みたいに混乱したときの情報の整理であったりとか、まだまだ改善点はあると思います」