更新日: 2018.04.17 14:37
MotoGP:元王者、青山博一チーム・アジア新監督のマネジメント術とは
「もちろんライダーは一生懸命走っていますが、メカニックも一生懸命にマシンを仕上げようと考えます。そこに摩擦や衝突が生まれることが多いのです」
「メカニックはデータを見て、例えば『進入で突っ込みすぎているから、走り方を変えたほうがいい』と言う。でもライダーは『いやいや、走っているのは自分で、あなたはピットでデータを見ているだけじゃないですか』と思う。その間に入ってあげるわけです」
「確かに、メカニックはコースサイドで走りを観察することができません。ライダーは『自分はこんなに頑張っているのに』と思います。そこで生まれる摩擦や衝突を、僕が取り除いてあげる。実際にコースサイドで走りを見て、『メカニックが言っていることは僕も正しいと思うよ。こういう走りをしたほうがいいんじゃない?』とライダーに伝える」
「一方、メカニックが『こういうセッティングにしたい』という気持ちも理解しつつ、『でもライダーがよくしたいと思っているのはこういう点なんだよ』とメカニックに伝える。簡単に言ってしまえば、調整役です」
そこで青山自身が考えているとおり、彼の強みが活きてくるのが青山の経験だ。ホンダ・チーム・アジアのライダーとスタッフはグランプリを戦っている時点で、“世界GPチャンピオン”という実績を残すことが、極めて難しいことをよく理解している。
だから全員が青山をリスペクトし、彼のアドバイスに耳を傾ける。世界選手権250ccクラスのチャンピオンという最高の結果だけでなく、さまざまなチームを渡り歩いた彼の経歴も、充分に承知している。
「ライダー側の立場で言えば、彼らが走って感じたことを、メカニックたちにどのようにフィードバックするかにも注意しています。チームスタッフは多国籍なので、英語を使うのが前提になりますが、ライダーがコメントするとき、自分が本当に感じていることを、うまく伝えられないという状況が生まれますよね。そこでも、僕の経験が少しでも活かせるのではないのかな、と思っています」
■MotoGPライダーたちは強烈なプレッシャーのなかで戦っている
ライダーたちが100%のパフォーマンスを発揮し、さらに成長するため、青山はレースウイーク以外の環境づくりも進めている。
「何ができていて、何ができていないのか。何が必要なのか。というのを見極めるためにまず思ったのが、選手たちのフィジカルコンディションを把握することでした。体重や体脂肪率、筋力、持久力などなど。今年からチームにトレーナーとドクターをつけていただき、各選手に合ったトレーニングプログラムを組んでもらうようにしました」
ホンダのMotoGPマシン、RC213Vのテストを行う青山のフィジカルは今も現役だ。いつでも実戦に参加できる状態にある。その青山がチームのトレーニングにも参加する。ホンダ・チーム・アジアのライダーたちは当然、『監督に負けるわけにはいかない』というプレッシャーを感じる。
「プレッシャーを感じるのは、プロライダーですから当たり前です。普段のトレーニングだけでなく、レースウイークではもっと強烈なプレッシャーがかかります。でも、そのプレッシャーを楽しみ、結果を残すのがレーシングライダー。ホンダ・チーム・アジアの選手たちが目指す頂点、レプソル・ホンダ・チームのライダーたちにかかっているプレッシャーは、本当に強烈ですよ」
厳しい一面を見せながらも、青山は若いライダーたちにかける期待をのぞかせる。
「でもマルク・マルケスもダニ・ペドロサも、そのプレッシャーを楽しみながら結果を残しています。そんなライダーになってほしいと思うのです」
「世界の頂点に立つには、さまざまな要素が必要であり、極めて微妙な差が勝敗を分けてしまうこともありますが、何よりも大事なのは、ライダーの気持ち。マシンのセッティングやタイヤ選びも重要で、それを精密に合わせ込んでいくのがグランプリの戦いですが、たとえそれがズレてしまっても、何とかしなければいけないのがライダーです」
「自分を速く走らせるために、たくさんの人が支援してくれていることを理解したうえで、自分が持っているポテンシャルを最大限に発揮して期待に応える。ホンダ・チーム・アジアのライダーたちには、その能力があると思っています」
「それを発揮できるようにしてあげるのが僕の役目であり、今発揮できる100%を超え、さらなる成長を遂げてもらえるようなチームにしたいな、と思っています」
今年、37歳。現役HRCテストライダーであり、つい数年前までMotoGPにフル参戦していた青山が監督として身近にいるというのは、ライダーにとって心強いに違いない。監督・青山博一が率いる新生ホンダ・チーム・アジア、2018年は1戦ごとに着実にその歩を進めるだろう。