更新日: 2020.11.10 09:50
【レースフォーカス】タイトル争い決着間近か。ミルの初優勝と対照的になったヤマハ/MotoGP第13戦
ヨーロッパGPについて触れるなら、ヤマハ陣営について書かねばならないだろう。まず、木曜日にはヤマハの技術的な変更において、必要な承認を得なかったことからペナルティが科された。
これについて少し詳しく補足しておく。motogp.comで公開されているヤマハのモーターレーシング・マネージメントディレクターのリン・ジャービスが語っているところによれば、問題の焦点はエンジンのバルブだったということだ。「2社によって製造された同一仕様のバルブ」だったのだが、承認を得ていたのは一方のみだった。日本のヤマハの判断の誤りだった、という。
このペナルティにより、ヤマハはコンストラクターズタイトルのポイントから50ポイントはく奪。また、モンスターエナジー・ヤマハMotoGPは20ポイント、ペトロナス・ヤマハSRTは37ポイント、チームタイトルのポイントからはく奪された。
承認を受けていないバルブが用いられているエンジンは、シーズン序盤からほとんど使用されていないという。シーズン序盤に、ヤマハのエンジン使用基数が話題になったことを覚えている方もいるだろう。その問題の根幹はここにあったというわけだ。そのため、今季は5基のエンジンでシーズンを戦わなければならないところ、エンジンのマネジメントが苦しくなってしまった。
この話題は、今大会で6基目のエンジンを投入せざるをえなくなったマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)につながっていく。ビニャーレスは6基目のエンジンにより、ヨーロッパGPはピットレーンスタートとなった。コンセッション(優遇措置)を受けないマニュファクチャラーの場合、今季は5基のエンジンで戦わなければならない。その上限を超えたために科せられたペナルティだった。
ビニャーレスは初日セッション後、アラゴンGPですでに厳しい状況だったと明かしていた。
「アラゴンではもうエンジンがなかった。テルエルGPでは、ひとつしかエンジンがなく、それはずいぶん長い距離を走ったものだった。それで、少ない周回しかできなかったんだ」
「もしかしたら、大変な転倒を喫してしまうかもしれない。それで、新しいエンジンを投入した。安全のためにね。新しいエンジンではあるけれど、関係ないよ。スピードは同じだから」
モータースポーツは、ほかのスポーツに比べて使う物(=バイク)が占める比重が大きい。ヨーロッパGPまでチャンピオンシップのランキング3番手につけていたビニャーレスは「タイトルは難しいだろう」とも言った。ビニャーレスは取材を受ける際、あまり表情も声色も変えない。このときも、淡々としたものだった。けれど、その胸中は計り知れないものがある。
そしてまた、チャンピオンシップのランキング2番手につけているクアルタラロにとっても、ヨーロッパGPは不運のレースとなった。いや、レースばかりではない。週末を通じてまったくと言っていいほど上位に浮上できなかった。予選では今季ワーストグリッドの11番手。予選日のあとには「フィーリングはゼロだ」とコメントしていたくらいだ。
そして決勝レースでは、1周目に転倒を喫した。レースに復帰したものの、結果は14位。2ポイントもぎとるのが精いっぱいだった。
1周目のクラッシュでは前を走るアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)がクラッシュし、そのために「ちょっとブレーキをかけないといけなくて、それでクラッシュしてしまった」のだという。転倒後はスターティング・デバイスに問題が発生してしまい、マシンが沈みこんだままレースをしなければならなかった。普段は前向きなコメントが多いクアルタラロだが、この日ばかりは少し違っていた。
「今日、チャンピオンシップを失った。アラゴンGPではよかったというわけじゃないけれど、でも、フロントの空気圧を下げてスタートしたかったんだ。でも、ヤマハの規定で、彼らはノーと言った。僕にとっては人生で最悪のレースだったよ。0ポイントだった。あのレースは5位、6位争いができたと思うんだ」
クアルタラロがさかのぼってまで言及していたアラゴンGPは、ポールポジションからスタートしてずるずると後退し、18位で終えたレースだった。確かにレース後、「フロントタイヤの空気圧が異常だった。コントロールできなかった」と語っていたのだ。クアルタラロは、アラゴンGPをよほど悔やんでいたのだろう。そして、ヨーロッパGPでは何をやってもうまくいかないという状況に陥り、決勝レースでは転倒。チャンピオンシップのランキングトップにいるミルとは、37ポイントの差が開いてしまった。
もうひとり、トラブルとともにレースを終えたライダーがいる。バレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)だ。PCR検査で陽性の結果が出たために第11戦アラゴンGPからレースを離れ、ヨーロッパGPの予選日から3戦ぶりに復帰した。「24日間も家で、ひとりで過ごしていたんだよ」と語っていたロッシ。
決勝レースでは、マシントラブルによってリタイアを余儀なくされた。気になるトラブルの内容だが、ロッシがレース後に語ったところによれば、エンジンではなく電子制御についての問題だった、ということだ。
シーズンは残り2戦である。冒頭でも触れたが、ヨーロッパGPはシーズンの大きな節目になったのだろうか。