更新日: 2020.02.04 19:45
マクラーレンとの決別が、ホンダ再生の糸口を見つけ出す機会に/海外ジャーナリストF1特別コラム
ホンダのそんな急激な進化を、どう説明したらいいのだろう。ルノーのあるエンジニアは、「あれだけ莫大な資金を投入すれば、パフォーマンスも上がって当然だ」とやっかみ混じりの感想を漏らしていた。
F1活動に最も熱心だったカルロス・ゴーンがいなくなってからのルノーは、重役陣の機嫌を損ねないよう、金の使い方もできるだけ控えめにしてきた。だから彼らがホンダの進化を平穏な気持ちで眺められないことは無理もない。
とはいえ2019年のルノーは、ことエンジンパワーに関しては、十分に評価できるだけの進化を果たした。何しろモントリオール(第7戦カナダGP)とモンツァ(第14戦イタリアGP)というエンジンパワーがモノをいうサーキットで、彼らはその年のベストリザルトを挙げたのだから(それでもカナダGPの予選4番手、イタリアGPでの決勝4位が精いっぱいだったわけだが)。
一方で信頼性に関しては、とても完璧とはいえなかった。MGUーKの度重なる不具合には、マクラーレンもルノーも大いに悩まされた。ルノーワークスは、第2戦バーレーンGPでニコ・ヒュルケンベルグ車のクランクシャフトが折れるという大トラブルにも見舞われた。
再発防止の対策を講じるまでに、彼らはシーズン中の5週間もの貴重な時間を費やした。その間ふたりのドライバーは、通常よりずっとパワーを落とした走り方を強いられたのである。
言うまでもなく今のF1は、車体とパワーユニットが同じように高いパフォーマンスを発揮しなければ、とても上位の戦いはできない。その意味ではエンストン開発の『R.S.19』も、決して満足できるレベルのものではなかった。対照的にホンダは、少なくともシーズン中盤以降は、レッドブルの車体性能を大いに頼りにできたし、それはレッドブル側も同様であった。さらにいえばトロロッソの二度の表彰台も、優れた『STR14』なしでは到達できないものだった。
マクラーレンとの決別は、ホンダにとって非常に大きな痛みを伴うものだった。しかし結果的にその決別が、ハイブリッドパワーユニット時代のF1で、ホンダが最適な居場所を見つけることに繋がったといえる。
2019年の第9戦オーストリアGPでレッドブル・ホンダが初優勝を遂げた際、表彰台に上がったマックス・フェルスタッペンは胸のHマークを何度も指差した。その行為はまさにレッドブルとホンダが共に乗り越えてきた壁の高さと、両者の絆の強さを窺わせるに十分であった。だからこそレッドブル・ホンダに特に強い思い入れのないフランス人の私でさえ、胸が熱くなってしまったのである。