更新日: 2016.11.06 14:04
【特集】ベッテルとフェラーリの夢の行方/4度の王者はあの日のモチベーションを取り戻せるのか
■シューマッハーとは違う、ベッテルが置かれた環境
ベッテルは勝ちたいと思っている。だが、彼は5度目の選手権タイトルを勝ち取るために、本気で必要な努力を傾けようとしているだろうか?
ベッテルがフェラーリに加わった時、彼はミハエル・シューマッハーと同様の働きをして、チームの状況を好転させることを夢見ていた。すでに4度も世界チャンピオンになっている彼に、それに必要な才能があるのは間違いない。とはいえ、その武器となるクルマを彼が自分で作ることはできず、戦うための準備の一部はテクニカルチームに頼らざるをえない。
彼の加入以来、フェラーリのマネジメント組織は少しも改善されず、むしろ以前より悪くなっている。パドックで最も評価の高いテクニカルディレクターのひとり、ジェイムズ・アリソン(写真下)はすでにチームを去った。彼の後任となったマッティア・ビノットは、エンジン技術者としてはきわめて優秀ながら、テクニカルチームのリーダーというタイプではない。
つまり、フェラーリの技術陣はリーダーがいない横並び構造の組織になったのだが、実は彼らが何よりも必要としているのは優れたリーダーなのだ。また、アリバベーネはチームを率いるにはまだ経験が足りず、社長のセルジオ・マルキオンネは、レースの世界ではなく自動車業界で育ったビジネスマンだ。
ベッテルが立たされている状況は、5年間で一度もタイトルを獲れず、シューマッハーの黄金時代にはほど遠い結果に終わった、フェルナンド・アロンソの在籍期間と似ている部分もある。
シューマッハーは、ジャン・トッドのチーム改革が軌道に乗り始めたところでチームに加わった。そして、ロス・ブラウン、ロリー・バーンを加えて、彼を中心としたチームが築かれた。一方、ベッテルがマラネロに来たことで、チームには新たな核ができたが、彼はスタッフを誰も連れてこなかったため、フェラーリは彼を中心としたチームを作るためのフレッシュな人材を欠いていたのだ。
さらに言えば、ベッテルが2015年に力強いシーズンを送れたのは、前年途中までチームを指揮したステファノ・ドメニカリ時代の遺産のおかげでもあった。ドメニカリがフェラーリを去ってからすでに2年半が経ち、彼の部下だった人々も、その多くがチームを離れている。
状況は変わりうる。だが、テクニカルチームの組織替えが実を結ぶまでには、少なくとも3年はかかるのが普通だ。残念なことに、今年に入ってからの人事異動は良い方向への変化とは思えず、ベッテルはそれ以上に長く待たされる可能性もある。
この記事は国内独占契約により英 AUTOSPORT.com 提供の情報をもとに作成しています