【2024年フォーミュラEをイチから学ぶ/中編】日本初走行のGEN3。マシン性能のカギは“電費”にあり
GEN1、GEN2という二世代の成熟を経て出力向上を果たしたGEN3。この車両は前世代のマシンとは異なり、フロントへの回生モーター搭載でリヤの油圧ブレーキが取り除かれるなど、特異な進化を遂げている。またフォーミュラEのマシンは、多くの人がフォーミュラレースとして想像するフォーミュラ1とは異なり、多くの共通部品を採用する。
GEN3の一例では、ハンコック製のタイヤをはじめ、スパーク・レーシング・テクノロジー製のシャシーやウイリアムズ・アドバンスト・エンジニアリングのバッテリーなどが共通部品となる。さらにモーター/インバーター/ディファレンシャル/トランスミッションをひとつのシステムに統合したアティエバ製の電動フロントドライブユニットも共通部品となっており、空力やバッテリー容量、フロントの回生機能は各チームの開発領域ではない。
このため、各メーカーやチームが主に開発を行う領域は、リヤのモーターやサスペンション、インバーター、ギヤボックスの部分。ただ、トータルのエネルギー出力は350kw(約477PS)、回生力は600kW(約815PS)とレギュレーションで定められているため、フォーミュラEでの開発の要点はエネルギー効率、通称“電費”となっている。
■GEN3 マシン諸元
車両名称 | GEN3 |
---|---|
全長 | 5016.2mm |
全高 | 1023.4mm |
全幅 | 1700mm |
ホイールベース | 2970.5mm |
最低重量(ドライバー含む) | 840kg |
最大出力 | 350kw(476.5PS) |
最大エネルギー回生量 | 600kw(815.8PS) |
エネルギー回生率 | 40%以上 |
最高速度(想定値) | 時速320km |
回生モーター搭載 | フロント&リヤ |
■開発の鍵を握る電費
フォーミュラEでは、レース全体をアクセル全開で走ってしまうとゴールまでのエネルギーが足りなくなってしまう。そのため、ほとんどのコーナーでリフト(アクセルオフ)&コースト(惰性走行)を行うことでエネルギーを“回生”していく。ここでいう回生とは、タイヤの回転を基にモーターを動かして電気エネルギーを回収することで、その回生とエネルギー消費の効率が、速さのカギとなる“電費”だ。
電費が良いマシンは、ライバルよりも短い距離で同じ量のエネルギー回生を行うことができるので、速度のロスが減る。速い車速でコーナリングすることが可能になると、コーナー立ち上がりの速度が伸ばしやすくなり、さらに速い車速からの回生に繋がり、戻ってくるエネルギー量も増えるというワケだ。電費が良ければ加速も回収も捗っていくため、その性能差がラップタイムの差となって現れるのが、現在のGEN3となっている。
なお、GEN3ではリヤのサスペンションレイアウトや、駆動エネルギーとは関係のない48ボルトのバッテリー電源を使用した冷却システムなどもチームが自由に開発することができる。
今季2023/2024年シーズン10は、エレクトリック・レーシング・テクノロジーズ(ERT)、ジャガー、マヒンドラ・レーシング、ニッサン、ポルシェ、ステランティスという6つのマニュファクチャラーが計11チームにパワートレインの供給を行っている。
そのなかで、現在シーズンをリードしているのはジャガーだ。その後方に実力が拮抗しているポルシェとニッサン、ステランティスが続いており、ERTとマヒンドラは大きく後れを取っている状況だ。
ただ、前戦の第4戦サンパウロE-Prixではニッサンパワートレインを搭載したネオム・マクラーレン・フォーミュラEチームのサム・バードが優勝。ニッサン・フォーミュラEチームのオリバー・ローランドが2戦連続の3位表彰台を獲得しており、日本勢の活躍も目覚ましいところ。東京E-Prixでは初めてのホームレースを迎えるニッサンの好走に期待がかかる。今回のフォーミュラEマシンの紹介はここまで。次回は参戦チームや注目ドライバーを紹介していきたい。