更新日: 2017.07.31 11:37
モータースポーツ界に激震。ポルシェ、メルセデスの相次ぐ撤退~フォーミュラE参戦は何を示すのか
シリーズ存続の危機にさらされているという点ではWECも状況は変わらない。ポルシェが去ることで、LMP1クラスに参戦するのはトヨタといくつかの小規模プライベートチームだけになる。
この状態で、仮にトヨタがプライベーターに敗れることがあれば、トヨタにとっては屈辱でしかなく、またトヨタが勝利しても大成功とは認められないだろう。このままではトヨタもWECを去る可能性が高いだろうし、留まる場合でもプログラムを縮小し、スパやル・マン、富士など限られたラウンドへの出場に留まるのではないだろうか。

またトヨタには、TS050を捨て、オレカ07シャシーにTRDが製造し、2017年の東京オートサロンに展示した4気筒直噴ターボエンジンを搭載して参戦するという手段もある。TMGやサード、トムスというチーム単位で参戦すれば、メーカーがプライベーターに負けるという“大惨事”を引き起こすことなく、ル・マンに参戦できるだろう。
WECは、これまで北米のIMSAウェザーテック・スポーツカーチャンピオンシップで使われているDPiマシンの参戦を拒否してきたが、マニュファクチャラーたちをシリーズとル・マンに呼び戻すには最善の策と言える。DPiは市販シャシーにメーカーの色をつけ、メーカーが参入しやすい土壌を作っているのだ。
■モータースポーツは電気自動車技術を競う場に!?
そして各国で自動車の排気ガスに関する規制が強まっていくなか、多くのメーカーはフォーミュラEへの関与を強めつつある。すでにジャガーやシトロエン、ルノーが参戦しており、またアウディやメルセデス、ポルシェも2018年以降、順次ワークス体制で参戦していく。

彼らがフォーミュラEに参戦する理由のひとつはコストの低さにある。マシンやバッテリーを開発せずに済むことを差し引いても、DTMやWECに比べると参戦コストははるかに低い。
イギリスとフランスでは2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止すると決定し、周辺各国もこの流れに続くとみられている状況でなくとも、排気ガス問題が取り沙汰されているなか、フォーミュラEに注力するという判断は賢明なものだ。
この2016年から続く一連の“混乱”は、モータースポーツの急激な構造変化の表れとも表現できるだろう。F1とIMSA以外のモータースポーツは、電気自動車技術を推進するカテゴリーではメーカー中心の、それ以外のカテゴリーではプライベーター中心の戦いに変化していくかもしれない。しかし、状況は依然として不透明なままで、大きなチャンスを生み出す可能性もあれば、リスクになる危険性も秘めている。
筆者:サム・コリンズ
イギリスでモータースポーツファン、レース業界関係者に広く読まれている『レースカー・エンジニアリング』誌のテクニカル担当ライター兼副編集長。F1からハコ車まで幅広い知見をもち、独特のレーシングカーには目がない。スーパーGT300クラスのJAF-GTカーを見るためだけに日本に訪れることもしばしば。